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140周年企画ズーネット連載「上野動物園 この10年──次の150周年に向けて」園長
 └─ 2023/03/01
 上野動物園は現在、動物園では定番のライオン、シマウマは飼育していません。なぜならば、限られた飼育施設をほかの動物種が使っているからです。限られた敷地で動物を良好に飼育するには、動物の種類を選択しなければなりません。大型動物や群れでくらす動物については特に、飼育環境についての配慮が必要です。上野動物園で飼育している動物は、10年前の2012年12月末には440種でしたが、2022年12月末では297種と減っています。これは、絶滅の危機にある野生動物の入手が難しくなったことに加え、1種1個体の動物種の飼育を見直し、珍しい動物種の数を競うことから、動物園が動物をどのように飼育するべきかという方向に考え方を変えた結果ともいえるでしょう。


東園「ゴリラ・トラの住む森」

 さて、人類がその利便を享受している文明は、一方で自然環境にも大きな影響を及ぼしています。プラスチックごみによる環境汚染、気候変動、新たな感染症のパンデミックなどが、野生動物のみならず人類の未来にも暗い影を落とす問題となっています。その原因は人間の活動にあり、私たちの行動が地球にくらすあらゆる生命の存続とも深く関係していることが明らかになりつつあります。また、戦争や急激な森林伐採も自然を容赦なく破壊し死の世界に変えてしまいます。

 たとえば、ジャイアントパンダは未解明なことが多い不思議な動物です。かわいい容貌やほほえましい仕草で動物園の人気者です。パンダは何万年もかけて進化し、中国南西部山岳地域の生態系に特異なニッチを獲得しました。しかし、現在の生息数は約2千頭にまで減少し、絶滅の危機に瀕しています。想像できますか、地球の未来を。将来、お孫さんと動物園に行ったとき、ジャイアントパンダ、ゾウ、トラ、ホッキョクグマは絶滅しましたと掲出されていたら、どんなに悲しいでしょう。

 それでは、これからの上野動物園はどのようにあるべきでしょうか? 狭隘ですが都心に近い立地、緑豊かで史跡も数多く保存されている文化の杜で、人と野生動物の共生を学ぶ場所をつくりたいと考えています。そこを訪れた人々が、動物の観覧、学習プログラムへの参加、食事やお土産品の購入などを楽しみながら、自然の複雑な仕組みや生命のつながり、他者への思いやりを学び、驚きと発見、安らぎと癒し、忘れることのできない思い出づくりができる場としていきたいと思います。上野動物園初代園長の古賀忠道は、太平洋戦争から復員した後、戦争の荒廃が残る上野で「こども動物園」や「移動動物園」に取り組み、「Zoo is the peace.」という言葉を残しています。動物園はこれからも平和で夢と希望に満ちた施設でありたいと思います。


西園のようす

 2022年12月、私たちは「地球環境保全行動戦略-小さな一歩を大きな未来につなげるために!」を策定しました。動物園の重要な役割である生物多様性保全の取組みをよりいっそう進めるとともに、園事業全般で地球環境への負荷を低減させる取組みを率先しておこないます。上野動物園が、「自然への扉」としての役割をしっかりと果たしていくことが重要です。


SDGsの取組み


レッサーパンダ舎と園長室

〔上野動物園園長 福田豊〕

◎140周年企画ズーネット連載「上野動物園この10年」
日本産希少野生動物の保全について
新たな一歩をふみだす「子ども動物園すてっぷ」
教育普及事業の変遷
動物病院の建て替え
変貌を遂げる入場門
都立動物園マスタープランに基づいたさまざまな取組み
新型コロナウイルス感染症への対策
ギフトショップおよびフードショップでの環境配慮への取組み
東園の動物の10年
両生爬虫類館の特設展示
飼料室の移転
『さるやまキッチン』オープン
西園の動物の10年
上野動物園レンタル用ベビーカーの58年ぶりモデルチェンジ

(2023年03月01日)



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