上野動物園には
レンタルベビーカーがあり、日々多くのお客さまにご利用いただいています。貸出料は500円、生後7ヵ月~4歳(体重18kgまで)の首がすわったお子さまが対象です。400台を保有しており、一日の貸出数は50~200台くらい、ゴールデンウイークなどの超繁忙日には一日500台になることもあります。一年間の貸出数は5万台前後です。上野動物園の事業課業務係と販売係が、このベビーカーの管理や貸出しなどをおこなっています。
旧べビーカーの終了
上野動物園でのレンタルベビーカーの貸出しは、1963年に始まりました。当時お客さまからレンタルベビーカーの要望が多く、とはいえ上野動物園としては、園路にはデコボコや坂や階段があり、混雑もするなかで大丈夫なのか懸念があったそうですが、ともかく始めたということです。
それ以来、初代ベビーカーの製作会社に50数年にわたり製作を依頼してきました。しかし2016年にその会社が廃業するとの知らせがあり、新たな会社でベビーカーを製作することになりました。2016年5月に、その検討を開始しました。
旧ベビーカー
新べビーカーの製作
58年続いた初代ベビーカーも、途中でフレームを強化したり、日除けや荷物かごをつけたりと改善はしていました。しかし最後のころにはさすがに古くなり、「レトロすぎる」「前輪が固定式で向きが変えにくい」「座面が低くて子どもから動物が見えない」などのお客さまの声も多くなりました。新ベビーカーはこれらをクリアして、さらに長期的に変更せず利用できること、上野動物園色を出すことをめざしました。
最終的には、ライム色のシート、背面にジャイアントパンダの図案、高い座面、回転式の前輪、大型の荷物かご、メッシュの日除け、停車ロック機能などを備えるものになりました。
新ベビーカー
製作会社は、インターネットで業務用ベビーカーを見ていて偶然見つけた画像から探し出したものです。そのころは「国内に特注で応じてくれる会社はもはやないのでは」と思いかけていたので、いける感触がわかってほっとしました。
製作会社のアルミパイプ製フレームに独自のシートを着せることを基本にして、細かい仕様を詰めていきました。「独自のシートを着せることで上野動物園色が十分に出せること」がほかにはない点でした。
半年間検討を重ねて2016年11月、試作機が完成しました。そして一年後には、400台の納品に向けて製作を開始しました。さらに、ベビーカーを10台載せて運搬できる「かご台車」、ベビーカーを回収するための「運搬車」もゼロから製作しました。
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かご台車 | 運搬車 |
新ベビーカーの貸出開始
- 2017年12月3日(日)旧ベビーカー営業終了 全台廃棄
- 2017年12月4日(月)新ベビーカー納品
- 2017年12月5日(火)新ベビーカー営業開始
このように休園日一日のみを利用した切り替えでバタバタしながらも、新ベビーカーへの移行は無事に終えることができました。なお、製作費などの都合から、この機会に貸出料を300円から500円に値上げしました。
そして新ベビーカーの使い勝手はお客さまにはたいへん好評のようで、今のところ大きなクレームもありません。
課題と雑感
新ベビーカー移行から5年が経ち、今後は機能が世のなかの水準から落ちてくることも意識しなければならないと考えます。たとえば、今の日除けシートはメッシュ式ですが、しっかりと日陰になるように布地を希望されるお客さまの声がありました。現行機が完成形ではないことの一例です。
一方で、2017年のモデルチェンジは「ベビーカー」「かご台車」「運搬車」とすべてのハードについての実施でしたが、たとえば「ベビーカーを何台保有すればよいか」「期待されているベビーカーの仕様はなにか」「管理運営にはかご台車や運搬車を使う」などの1963年以来培った考え方は見直す必要はありませんでした。改めて、旧ベビーカーでゼロからつくられた仕組みは現在にも通用している、と思い返しました。
貸出しを待つたくさんの新ベビーカー
今後も、小さなお子さまやそのご家族にも楽しく快適に動物園をお楽しみいただけるよう運営してまいります。上野動物園オリジナルデザインのベビーカーのご利用をお待ちしています。
〔上野動物園業務係 佐藤貫〕
◎140周年企画ズーネット連載「上野動物園この10年」
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日本産希少野生動物の保全について
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新たな一歩をふみだす「子ども動物園すてっぷ」
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教育普及事業の変遷
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動物病院の建て替え
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変貌を遂げる入場門
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都立動物園マスタープランに基づいたさまざまな取組み
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新型コロナウイルス感染症への対策
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ギフトショップおよびフードショップでの環境配慮への取組み
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東園の動物の10年
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両生爬虫類館の特設展示
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飼料室の移転
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『さるやまキッチン』オープン
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西園の動物の10年
(2023年02月15日)