上野動物園のこの10年を振り返るにあたり、避けては通れない話題として「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策」があります。
上野動物園では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため、2020年2月29日から6月22日までの115日間、そして同年12月26日から翌2021年6月3日の160日間、さらに2022年1月11日から3月22日の71日間の計3回、臨時休園となりました。
上野動物園の長い歴史のなかでもこのような長期にわたる休園は少なく、このほかには1923年(大正12年)9月1日から12月10日の関東大震災による休園101日間、1882年(明治15年)8月1日から9月19日のコレラ流行のための休園50日間、2011年(平成23年)3月17日から3月31日の東日本大震災による休園15日間などがありますが、日数と回数をくらべると、今回の新型コロナウイルス感染症による影響の大きさがわかります。
ウェブ用の休園告知バナー
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閑散とした上野公園 | 臨時休園のお知らせ看板 |
臨時休園中の動物園においても動物の飼育は休みなく続きます。また、この感染症を動物に感染させてしまう可能性もあります。動物たちを守るためには、まずは飼育係が感染しないことが重要です。そのためマスク着用や手洗い・消毒の励行など、基本的な感染防止対策を徹底することはもちろんですが、万が一、飼育係の誰かが感染しても、そこから職場内における感染拡大を起こさずに飼育を続けることができる体制を急いで整える必要がありました。
そこで、飼育部門以外の職員も含め、職員間における感染拡大を防ぐため、臨時休園中、主に次のような対策をおこないました。
1.職員のチーム分けと、時差勤務の活用
上野動物園では、飼育係が数人ずつで班をつくって動物の世話にあたっています。ここでもし感染者が出た場合、同じ班の飼育係全員が濃厚接触者となってしまって出勤できなくなるおそれがありました。
そこで、休園期間中は各班をさらに2つのチームに分け、交替で出勤するようにしました。出勤するチームは動物の健康管理に専念し、もう一方のチームは在宅勤務により記録のまとめや飼育マニュアルの精査などの業務を進めます。こうして2チームが互いに接触しないようにしておけば、もし片方のチームの誰かが感染したとしても、もう一方のチームが飼育業務を継続できるという体制です。なお、飼育係以外の職員においても可能な限りこの2チーム制を採用し、職員間の感染拡大防止に努めました。
さらに、職員が共同で使用している更衣室での朝夕の密集を避けるため、時差勤務制度を活用しました。飼育係は一日の終わりに衛生管理のため入浴する必要があるのですが、時差勤務制度は、浴室の混雑や密回避にも役立ちました。
更衣室に掲出した職員用心がけポスター
(左:男子・ライチョウ[オス]、右:女子・ライチョウ[メス])
2.事務室の分散
上野動物園の管理事務所は、飼育係をはじめいろいろな部署の職員が事務作業や昼食休憩などで利用しているため、クラスターが発生するおそれがありました。そこで、事務室をなるべく分散させるようにしました。
具体的には、それぞれの動物舎内にある控え室や、休園中で使用していない売店や食堂などを代わりの事務室として活用し、職員が同じ管理事務所に集中することのないようにしました。
さらに事務室内でも、デスクが対面にならないよう配置に工夫をしたり、パーテーションや飛沫防止フィルムを設置したりするなど、感染を防ぐための対策を徹底しました。また、さまざまな会議や打ち合わせについてはオンライン会議システムを活用し、職員どうしの接触をなるべく避けるようにしました。
3.最新情報の共有と災害対策
最初に緊急事態宣言が発出された2020年4月7日から現在に至るまで、毎日「新型コロナウイルス感染症対策会議」をオンラインで開催し、職員の健康状況の把握や情報共有などをおこなっています。
また、定期的におこなっている災害などを想定した訓練についても、職員どうしが集合することによる感染を防ぐため、オンラインでの訓練に置き換えて実施し、コロナ禍に災害が生じた際の対応について検証しました。
4.再開園に向けた検討
再開園するにあたっては、どのような感染拡大防止対策をおこなうべきか、慎重に検討を重ねました。そして、上野動物園として初めてとなる事前予約制を導入しました。
また、密が発生するおそれがある屋内施設の閉鎖や、大切な人と動物を守るためのルール「新しい動物園の楽しみ方」の策定、さらに入場門での検温など、さまざまな対策を実施しました。
新しい動物園の楽しみ方
お客さまへ感染拡大防止を呼びかけるにあたっては、ただ注意を促すだけではなく、少しでも動物園らしくやわらかい表現によりお伝えできるよう、当園のデザイナーによるオリジナルデザインのポスターや貼り紙などを作成しました。これらの掲示物はとても好評で、「ぜひグッズにしてほしい」という声もいただきました。
距離をたもとう
(左:ジャイアントパンダ1頭分、右:羽を広げたハシビロコウ1羽分)
距離をたもとう
(左:カバ1頭分、右:マタコミツオビアルマジロ4頭分)
表門に設置したソーシャルディスタンスのお知らせ
ジャイアントパンダの爪まで詳細に表現した「こちらでお待ちください」
5.終わりに
新型コロナウイルス感染症の脅威により、動物園をとりまく環境は大きく変化しました。
いまなお続く感染拡大への対策をしっかりと講じつつ、動物も、お客様も、そして職員も安心してすごすことができる環境づくりを、これからも進めてまいります。
〔上野動物園管理係 藤崎智子〕
◎140周年企画ズーネット連載「上野動物園この10年」
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日本産希少野生動物の保全について
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新たな一歩をふみだす「子ども動物園すてっぷ」
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教育普及事業の変遷
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動物病院の建て替え
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変貌を遂げる入場門
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都立動物園マスタープランに基づいたさまざまな取組み
(2022年11月01日)