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140周年企画ズーネット連載「上野動物園 この10年──動物病院の建て替え」動物病院係
 └─ 2022/09/15
 上野動物園開園140周年記念企画として2012年からの10年を振り返る本連載。第4回は、園内の飼育動物が怪我や病気になった際の治療を担う「動物病院係」の担当です。

 この10年のあいだに、動物病院係にとっても大きなできごとがありました。動物病院が新しく建て替えられたのです。東園のアシカ池前にある「動物医療センター」がそれです。この建物の基本設計ができたのがちょうど10年前の2012年でした。

 そのころ使用していた旧動物病院は、かつて上野動物園に勤務されていた獣医師が設計したそうで、1973年3月に使用開始しました。現在のさるやまキッチンの裏手にあり、正面玄関がある2階には事務室と治療室、検査室、入院室、薬品室、1階には解剖室とX線検査室、トラなどの大型獣を収容できる入院室などを備えていました。また道を挟んで向かい側には検疫・入院のための「検疫棟」があり、ニシゴリラ「ハオコ」を検疫する際につくった類人猿用の検疫室も備わっていました。さすが現役の動物園獣医師が設計しただけあり、とても考えられたつくりでしたが、老朽化に加え、日々進歩する動物医療に機能面で対応しきれなくなってきました。そんななかで計画されたのが、新しい動物病院の建設です。

 新動物病院を設計するにあたり重要視したのは、高度化する動物医療への対応でした。動物医療が人の医療並みに発達していくなかで、動物園でも既存の医療機器を最新のものに更新するなど努力していましたが、それでも対応できない高度獣医療や検査が求められる場合には獣医大学の附属病院に動物を搬送していました。「新動物病院は、いままで園内ではできなかったレベルの動物医療をおこなえる施設にしたい」。その想いから、当時の動物病院係職員は国内外のさまざまな動物病院や施設を見学したり、医療機器の展示会に行ったりするなどして情報収集に励み、検討を重ねました。

 そうしてでき上がったのが、現在の動物医療センターです。旧病院の使用開始から43年後の2016年3月に役割をバトンタッチして以降、大小さまざまな動物の検査、治療をおこなってきました。病院の経験をふまえて作業動線を見直したつくりや、延床面積1.8倍となった広さのおかげで、以前は飼育現場で検査、治療することの多かったトラなどの大型動物も動物病院で処置しやすくなりました。2018年導入のCTスキャン装置をはじめとした医療機器の充実により診断精度も向上し、動物たちの病気の早期発見、早期治療に大きく役立っています。

 設備の充実が進む動物医療センターですが、同時にそれらを扱う我々獣医師の技術が不可欠であることは言うまでもありません。かつての先輩獣医師の方々は、いまほどの高度な機器や情報がないなかでも目の前の命と向き合い、新しいことに挑戦し、動物園や野生動物の動物医療を発展させてきました。私たち現役の獣医師もその意志を受け継ぎ、充実した医療機器と自分の五感を駆使して動物の健康を支えていきます。そして、動物園や野生動物の医療技術をさらに発展させるべく、挑戦を続けてまいります。

〔上野動物園動物病院係 平野雄三〕


まだ新しい旧動物病院


旧病院の診療手術室。昔の手術室はタイル貼りが主流でした。


役割を終えた旧動物病院(2016年撮影)。43年の間に周囲の木も育ちました。


かつてジャイアントパンダの人工授精も行われた診療手術室ですが、時代の流れとともに手狭になっていきました。


現在の動物病院(動物医療センター)


診療手術室。奥にはレントゲン・CT室があり、作業動線を考えた造りになっています。

◎140周年企画ズーネット連載「上野動物園この10年」
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(2022年09月15日)


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