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140周年企画ズーネット連載「上野動物園 この10年──『さるやまキッチン』オープン」事業課長
 └─ 2023/01/15
 事業課長は、ギフト・フードショップの管理運営、入場門での売改札や案内所の運営、そして園内の清掃など施設維持管理を担当する管理職です。私からはこの10年の出来事として、新しく建築された施設「さるやまキッチン」のエピソードについてご紹介します。

 2016年3月、東園の無料休憩所とそれに併設していた飲食販売店(以下「東園食堂」)は、耐震化計画にともない閉鎖されることになりました。東園食堂は、途中改修がおこなわれましたが、1958年(昭和33年)建築で実に半世紀以上にわたりみなさまから親しまれてきました。最終の営業が終了した際に、来園者の方が想い出の写真を撮影していかれたことがとても印象に残っています。

 その後、本格的に建物が解体されていくなか、同時に私たちは新しい施設の営業に向けて準備を進めました。


閉鎖した東園食堂

新施設のコンセプト

 東園食堂は上野東照宮に隣接する敷地にありましたが、新施設はこちらも同時期に解体された旧ラマ・バク舎の跡地に建設することが決まりました。この場所も旧施設と同じく東園と西園を往来する主動線上にあるため、来園者のみなさまがもっとも利用しやすいと予想されました。

 また、当時は東京オリンピック・パラリンピックを4年後に控えた時期でしたので、海外からの来園者も非常に増えていました。そこで私たちは「日本のおもてなし」を意識した施設として、和風のメニューを中心に営業することを決めました。

新施設の設備

 東園食堂の建物使用面積は約319㎡、ホール内に座席が約120席と建物の周囲にテラス席を配備していました。新施設の建物使用面積は1階と2階あわせて約718㎡あり、客席数を1階60席、2階120席の合計180席まで増やせるようになりました(現在は感染防止対策のため席数を減らしています)。

 1階にはご家族連れやグループの方が利用しやすいボックス型の座席を配置しました。また、コロナ禍で会食を避けるため2階の窓側にカウンター席を配置しました。さらにイスの背面には、日本らしさを演出するためニホンザルとサクラ、ニホンリスとイチョウ、エゾシカとモミジといった園内で見られる日本の動植物と、上野動物園の代表的な展示動物であるジャイアントパンダとタケのシルエットの絵柄をデザインしました。

 また、1階、2階いずれにも授乳室とバリアフリートイレを配備、トイレの扉をスライド式にすることで個室数も増やしました。それ以外に、エレベーターも設置しました。そして、ホールやメニューボードにはデジタルサイネージを導入し、2階ホールには大型の液晶ディスプレイや印刷物を設置できるスペースを設けて、利用者のみなさまが食事をしながら園の情報を知ることができるようにしました。

さるやまキッチンの内観(1階)
さるやまキッチンの内観(2階カウンター席)

新施設のネーミング:さるやまキッチン

 2019年1月には、新施設の名称を決めるための案を当協会内で募集しました。園内各課係の職員による名称検討会を設置し、多くの職員からの応募のなかから候補5点を選び、最終的に「さるやまキッチン」に決定しました。

 この名称を応募した職員は、「東園のランドマークであるサル山のそばに位置することがわかりやすく、やわらかく親しみのわく語感であり、『食』を通して人々が集い楽しい時間を創る『台所』でありたいとの想いを込めました」と説明していました。この名称に決定したのは、「老若男女誰でも読めて、わかりやすく覚えやすい。名称を伝えるだけで場所をすぐに想像できてご案内しやすい。『さるやま』というひらがな表記と言葉の響きがかわいらしい。サル山は歴史的意味も含め園の重要施設。サル山は、エリアの象徴的な、来園者のみなさまにとっても目立つ存在」ということが決め手でした。

 新施設の名称が決まり、次に園内のデザイナーに依頼してこの名称にマッチしたロゴマークをつくりました。以下は、このロゴマークを製作したデザイナーの言葉です。

 「四季折々の園内を映す外装と和モダンな内装、それらに調和するような柔らかく落ち着いた雰囲気を持ちつつも、『さるやまキッチン』の響きの愛嬌を伝え、愛着を持っていただけるようなデザインをめざしました。カラーの円枠の色は四季を表し、円のなかにサル(ニホンザル)を配置した、『紋』のようなデザインです。シンプルな線で構成されているので、さまざまな場所に配置しても邪魔をしないデザインかと思います」


さるやまキッチンのロゴマーク

さるやまキッチンのメニュー

 営業開始時には、地元東京の食材をアピールするために、東京都畜産試験場において開発された「東京エックス」というブランド豚の加工品を使用した豚角煮丼を販売しました(現在は終了)。

 ほかにも、海外からの来園者で特にハラルメニューを必要とされる方やビーガンの方でも召し上がれるように、動物性原材料不使用の「大豆ミートの甘辛醤油そぼろ丼」をメニューにラインナップしました(マヨネーズやみそ汁も動物性ではなく植物性のものに置き換えて使用しています)。和スイーツでは、大判焼きに「さるやまキッチン」のロゴマークの焼き印を入れた「さるまん」を販売しています。

 さるやまキッチンでは、これからも創意工夫を繰り返しながら、みなさまに楽しくお食事いただけるようなメニューづくりに努めてまいります。

大豆ミートの甘辛醤油そぼろ丼
オープン当時の「さるまん」

さるやまキッチンのオープン

 多くの工夫を盛り込んだ「さるやまキッチン」は、2020年2月26日に無事に営業を開始しました。ところが残念なことに、新型コロナウイルスの感染拡大によって、わずか3日後の2月29日に上野動物園は臨時休園になってしまいました。

 休園期間が長引くなか、さるやまキッチンを含む園内フードショップの食材が賞味期限を迎えてしまう事態になりました。そこで、賞味期限の近い食材から職員へ販売するなど少しでも食品ロスを減らすために取り組みました。

 やがて、同年6月23日から整理券制での入園制限を設けての再開園が決まり、新型コロナウイルス感染拡大防止対策としてソーシャルディスタンスを保つためのマット、消毒液、飛沫飛散防止フィルムや仕切り板などを設置し、マスクを着用しながらようやくご来園のみなさまをお迎えすることができました。その後も何度か臨時休園と再開園を繰り返し、2022年3月23日の再開園からは閉園することなく営業を続けています。いまでは、上野動物園内にもコロナ前の活気が戻ってきています。

 無事に再開を果たした「さるやまキッチン」ですが、これからも旧施設「東園食堂」のように長くみなさまから親しまれ、「さるやまキッチン」のネーミングの由来にふさわしい施設として存続することを願いまして結びとさせていただきます。


さるやまキッチンの外観

〔上野動物園事業課長 服部一朗〕

◎140周年企画ズーネット連載「上野動物園この10年」
日本産希少野生動物の保全について
新たな一歩をふみだす「子ども動物園すてっぷ」
教育普及事業の変遷
動物病院の建て替え
変貌を遂げる入場門
都立動物園マスタープランに基づいたさまざまな取組み
新型コロナウイルス感染症への対策
ギフトショップおよびフードショップでの環境配慮への取組み
東園の動物の10年
両生爬虫類館の特設展示
飼料室の移転

(2023年01月15日)



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