葛西臨海水族園には飼育展示係や教育普及係など、さまざまな部署があります。
今年35周年を迎える記念企画の一つとして、各部署のリーダーたちが「理想の展示・水族館」や「今後の仕事でやりたいこと・夢」などをテーマに「水族園リーダーたちの夢」と題してして連載記事を掲載します。
第8回「夢見るおじさん」
♪もういくつ寝るとお正月~~♪ 間もなくお正月がやってきますね。早くも来年の初夢は何が見られるか気になっている調査係のアメケンこと雨宮健太郎です。今年最後の「リーダーたちの夢」は私が担当します! この文章を読んだ子どもたちが将来に向けて大きな夢をもってもらえるきっかけになればうれしいと思いキーボードを叩いています。
小学校の文集に書いた将来の夢は「遠洋マグロ漁船の乗組員」。子どものころから海と釣りが大好きで、大海原で巨大なマグロを釣ることを夢見る少年だったのでしょう。月日が経ち、大学時代は海洋学を学びながら、釣りにダイビング、サーフィンなど海をたっぷりと楽しみました。そして、卒業後のある日、新聞の求人欄でおもしろそうな広告を見つけました。

時代を感じさせる色褪せたこの広告が水族園とのご縁の始まりでした
それは葛西臨海水族園の調査係の求人でした。要約すると「水族館で展示する生きものを世界中へ出かけて集めてくる仕事」とのこと。おもしろそうだからと履歴書を送ったことが25年にも渡る葛西臨海水族園とのご縁のはじまりでした。
調査係の業務は水族園で飼育展示する生きものを世界中から収集することです。このように生きものの収集に特化したチームがある水族館は世界的にみても稀なのです。さて、そんな調査係の一員となった私は、先輩たちと日本各地を始めとして北は北極(圏)、南は南極(圏)、北中南米、アフリカそしてヨーロッパと文字通り世界中を飛び回り、生きものの調査と採集をおこないました。

2023年10月、ナーサリーフィッシュ採集のためにオーストラリアのダーウィンに出張
海外採集は緊張もするけど楽しい仕事です
この仕事を通して世界中の海を見て、異国の文化にふれ、多くの人たちと海とそこに棲む生きものについて語り合うなど多くの貴重な経験を積むことができました。
そんな中、当時の調査係では、毎年恒例の大仕事がありました。マグロ類の収集と輸送です。それは8月のお盆明けから始まりました。鹿児島県笠沙町でマグロの幼魚を地元の漁師さんたちに釣ってもらい、しばらくイケスに入れて飼育し体力を付けさせたら、奄美大島へ運びます。今度は、現地の養殖業者さんに約7kgの大きさまで育ててもらい、翌年の5月~6月ごろに水族園の水槽に搬入するという流れでした。とくに笠沙でのひと月ちょっとのあいだは、朝から晩までマグロ、マグロ、マグロの毎日で、マグロ好きの私にとってはとても楽しく、夢のような日々でした。
その後、飼育展示係でマグロ類の飼育を担当し、そして教育普及係では水族園に入ったころから、いつか実現したいと夢見ていた移動水族館の担当もできました。
フっと思うと、小学校の文集に書いた「将来の夢」に近い仕事に就くことができ、その仕事を始めてから見始めた夢も叶っています。
もうそれ以上は夢なんてないでしょうとお思いですか? いやいや、まだまだあります! たとえば、河童の飼育展示(笑)、真っ青なハワイの海で特大カジキを釣る、マグロのうんちくを語るマグロ焼き屋のオヤジになる、などなどチャレンジしたいことはたくさんあります。
さて夢に向かって進んできた私ですが、若いころには受験失敗(高校も大学も!)など何度も壁にぶつかることもありました。それでも、海について学びたい、そして将来は海に関わる仕事をしたいという夢を諦められずにがんばっていると、一寸の光が見えるときがおとずれます。その瞬間、神さまがくれたこのチャンスを逃すまいと光に向けて猛ダッシュしてチャンスに飛びついていた記憶があります。もちろん周りの人たちのたくさんの助けもありました、感謝感謝! みなさんも将来の夢をもって、全力でその夢に向かうと楽しい人生になるのではないかと思います。
長くなってきたので、夢の続きはいつか別の機会にお話ししましょう。
みなさま、良いお年をお迎えください。
〔葛西臨海水族園調査係長 雨宮健太郎〕
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・連載:35周年企画「水族園リーダーたちの夢」
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[3]水族園を背後で支える施設の維持管理の仕事に携わってみませんか
[4]楽しく学べる水族園
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[12(最終回)]事業課スタッフの想いと日々
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