葛西臨海水族園には飼育展示係や教育普及係など、さまざまな部署があります。
今年35周年を迎える記念企画の一つとして、各部署のリーダーたちが「理想の展示・水族館」や「今後の仕事でやりたいこと・夢」などをテーマに「水族園リーダーたちの夢」と題してして連載記事を掲載します。
第7回「インクルーシブな水族園を目指して」
水族園で働いていると、「担当の魚は何ですか?」と聞かれることがあります。私は決まって「担当はヒトです。お客様への案内接遇を担当する部署で働いています。」と答えています。水族園には、生物の管理をおこなう飼育スタッフ、学校向けプログラムやガイドツアーなどを担当する教育普及スタッフ、設備の維持管理をおこなう施設スタッフ、ギフトショップやレストランを担当する販売スタッフ、そして、水族園の事務や各所との調整を担当する管理スタッフなど、多くの人たちで成り立っています。その中で、私たち案内接遇担当は、入園券の販売から来園されるお客様へさまざまなご案内を担当しています。
私はこの案内接遇の部署に携わり十数年になりますが、最初の頃、「水族園は多様な方々が集まる場であり、その方々一人ひとりに向き合った対応を心掛けるように」と教わったことを今でも覚えています。日々たくさんのお客様をお迎えし、入園券の販売や入園に関する案内を担当していると、多様な方々が来園されていることに気づきます。ご家族連れ、カップル、お一人で来る方、遠足団体、また、お子さまからシニア世代の方、体が不自由な方、外国人来園者などさまざまです。誰もが楽しい思い出をつくっていただけるよう、私たち案内接遇担当部署では、丁寧な対応を心掛けた取り組みをおこなっています。その取り組みについて紹介します。
お客様から寄せられる問い合わせには、「トイレはどこですか?」「授乳室はありますか?」といった施設利用に関するものがあります。他に、観覧ルートの問い合わせもいただきます。水族園は今年で開園35周年を迎え、日々の清掃や定期的な補修をおこないながら維持管理していますが、経年のため改修が難しくなっている箇所も多くあります。通常の観覧順路には階段しかない場所もあり、車いすやベビーカーを利用されるお客様には、エレベーターをご案内しています。しかし、通常とは異なる館内ルートとなるため、館内案内図はわかりやすいものとなるよう心掛け、スロープやエレベータールートなどをもれなく表記して作成しています。見やすい案内図の作成も私たちの大事な仕事の一つです。
日本を訪れる旅行者の増加に伴い、水族園にも海外から多くのお客様が来園します。そのため、案内図は多言語対応(英語、韓国語、中国簡体字、中国繁体字)で用意し、案内誘導サインは日英二言語併記を基本に設置、館内自動放送は日英の二言語で対応しています。通訳を必要とするお客様のため、入園券の券売窓口や案内カウンターでは、来園者とオペレーター、スタッフの三者間でのコミュニケーションを可能とするタブレット端末による映像通訳がおこなえるように準備しています。また、体が不自由な方にも安心してご利用いただけるよう、聴覚に障害をお持ちの方のため筆談ボードを設置するほか、手話でもコミュニケーションがとれるように、タブレット端末による映像通訳を用意しています。
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案内カウンター設置の筆談ボード | エレベータールート入口案内 |
ハード面だけでなく、私たちスタッフも来園者との円滑なコミュニケーションと情報提供のバリアを取り除く取り組みをおこなっています。外国人来園者とのコミュニケーションスキルの向上を目標とした講習や、高齢者や体の不自由な方に関する基礎知識を学び、向き合い方やお声がけ方法などを学ぶユニバーサルマナー講習などをおこない、接遇力向上と知識習得などソフト面でのレベルアップを目指しています。
「インクルーシブ」という言葉をご存知でしょうか? 直訳すると「包括的」や「全員参加」という意味の単語です。性別や人種、国籍、障害の有無など、その持っている属性によって排除されることなく、全ての方が平等に参加できる社会を目指す考え方で、さまざまな背景を持つ人々が共に活動できる環境をつくることを指します。私たちの水族園でも、この考え方を大切にし、誰もが安心して楽しむことのできる水族園を目指しています。ユニバーサルデザインの導入など、まだまだできることはたくさんあります。
これからも、水族園を訪れるすべての方に楽しんでいただけるよう、インクルーシブな環境づくりに取り組んでいきます。
〔葛西臨海水族園案内係長 星野道彦〕
・連載:35周年企画「水族園リーダーたちの夢」
[1]水族園の展示に込める思い
[2]水族園の目指す道──ずっと身近でいてほしい
[3]水族園を背後で支える施設の維持管理の仕事に携わってみませんか
[4]楽しく学べる水族園
[5]海をつくりたい
[6]アクア・ポジティブ
[7]インクルーシブな水族園を目指して
[8]夢見るおじさん
(2024年11月22日)