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35周年企画「水族園リーダーたちの夢」[5]海をつくりたい
 └─ 2024/09/27
 葛西臨海水族園には飼育展示係や教育普及係など、さまざまな部署があります。

 今年35周年を迎える記念企画の一つとして、各部署のリーダーたちが「理想の展示・水族館」や「今後の仕事でやりたいこと・夢」などをテーマに「水族園リーダーたちの夢」と題してして連載記事を掲載します。

第5回「海をつくりたい」

 わたしは海と海の生きものが好きです。そして、海の生きものをいつでも眺めることができる葛西臨海水族園がとても好きです。

 水族園の職員なんだから、そんなこと当たり前でしょう、と思われるかもしれません。しかし、水族園で働くうえで、これがわたしの原点であり、悩んだり行き詰まったりしたときに立ち返るところでもあります。

 葛西臨海水族園の展示は、各水槽にコンセプトとなる海域を設定しています。それぞれの生息環境にくらす生きものの本来のすがたが伝わるよう、さまざまな工夫をこらしてきました。これまで多くの方々にお楽しみいただき、今年で開園35周年をむかえます。

 わたしが初めて葛西臨海水族園の水槽をみたのは小学生のときです。その頃は展示をつくるためにこんなにもたくさんのくふうがあるなんて(世界各地の海に潜って生きものを集めている!なんてことも)、もちろん知りませんでした。職員として展示づくりを担うようになり、どうしたら生きものがもつ魅力を伝えることができるか、悩み、試行錯誤してきました。展示を見て喜んでくださっている場面に出会い、誇らしく思ったこともあります。それでも、どうしたって越えられない壁があります。それは、水槽の中に「海をつくる」ことです。


小学生のころ「東京の海」でえさやり体験をした

 海に潜った経験がある方なら、水面下に広がる無数の生きものと自然環境が織りなす多様な景観は、とうてい水槽の中で再現できるものではないと感じることでしょう。水族園の水槽は、海には敵わないのです。では、海と海の生きものの本当の魅力を伝えるためには、海の中に潜って体感してもらう以外に方法はないのでしょうか。わたしたち水族園にできることは、いったい何でしょうか。

 海に潜ることができる環境にある方は、水族園の水槽ではなく、ぜひ本物の海で生きものを観察していただきたいと思っています。でも、すぐに海に行くことができない方はもちろん、海に潜ることができる方も、天候が荒れたり時間が足りなかったりするときには「海の代わり」に水族園をご活用ください。特別な技術や道具がなくとも、いつでもいくらでも生きものを眺めることができます。本物の海には敵わなくとも、潜るだけでは得ることができない特別な体験を用意してみなさまのご来園をお待ちしています。わたしはこれこそが水族園の強みだと思っています。

 めったに出会うことができないような生きものの行動(食べたり、寝たり、求愛したり、ときには産卵したり!)も観察できます。簡単には行くことができない深海や極地の生きものも展示しています。知識を深めたい方には、いろいろな解説プログラムやたくさんの観察イベントも用意しています。

 さて、わたしの夢は、さきほど「つくることができない」とお伝えした「海」を、水族園でつくることです。海をつくる条件は何か。展示する生きものを適切に飼育すること、光や水の動き、水槽の中と外の環境演出、それらの無限のかけ合わせを模索し、ほんの一瞬でも海を感じとっていただけるよう、追及し続けていきます。

 わたしはいま、2028年に予定している水族園のリニューアルに向けた調整業務を担当しています。建築の専門家や展示制作の専門家、それぞれの分野の有識者といっしょに、これまでにない魅力的な水族園を目指しているところです。

 夢は、海をつくること。がんばります。

〔葛西臨海水族園新水族園準備室長 中沢純一〕

・連載:35周年企画「水族園リーダーたちの夢」
 [1]水族園の展示に込める思い
 [2]水族園の目指す道──ずっと身近でいてほしい
 [3]水族園を背後で支える施設の維持管理の仕事に携わってみませんか
 [4]楽しく学べる水族園
 [5]海をつくりたい
 [6]アクア・ポジティブ

(2024年09月27日)



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