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35周年企画「水族園リーダーたちの夢」[2]水族園の目指す道──ずっと身近でいてほしい
 └─2024/05/24
 葛西臨海水族園には飼育展示係や教育普及係など、さまざまな部署があります。

 今年35周年を迎える記念企画の一つとして、各部署のリーダーたちが「理想の展示・水族館」や「今後の仕事でやりたいこと・夢」などをテーマに「水族園リーダーたちの夢」と題してして連載記事を掲載します。

第2回「水族園の目指す道──ずっと身近でいてほしい」

 私の育った場所は、東京といっても山間部の新興住宅地で、周囲は低山に囲まれ、自宅の近くには沢が流れていました。自転車で足を延ばせば多摩川の支流が流れており、小川や田んぼも残っていました。

 小学校時代の遊びといえば川遊びと虫取りで、低学年のころは、よくカエルを捕まえて遊んでいたものでした。バナナのような卵がたくさんあり、カエルの卵のうと思っていたものが実はトウキョウサンショウウオの卵のうだということを後に知りました。よく探してみると、自宅近くにはたくさんのトウキョウサンショウウオが生息していることがわかりました。

 当時、水辺の生物への興味が芽生えたころで、アカハライモリをどうしても捕りたくて小川を探し回り、廃墟となった農家の古井戸の奥底で、初めて捕まえたのでした。小学校高学年のときには近くの渓流で初めてヤマメを釣り、その綺麗な模様に感動し、焼いて食べたときのおいしかった体験も鮮明に覚えています。

 自分にとっては遊び相手のような存在であったこれらの身近な水辺の生物が、じつは減少していると知ったのは中学生のころで、それでもまだたくさんの生き物が見られており、中学校のプールには毎年、モリアオガエルが産卵に来ていて、プール開きのころには卵を排水してしまうため、持ち帰って庭先のバケツに入れて育てていたことがありました。大人になるにつれてフィールドへ足を運ぶことは少なくなり、気がつけばトウキョウサンショウウオが生息していた小川はフタをされて暗渠(あんきょ)となり、生息地はひっそりと狭められていたのでした。


身近なヒキガエルも減っている

 身近にいる生物がこの先もずっと身近でいてほしい! 自分はどうすればよいのか、大人になるにつれて真剣に考えるようになり、自然と生物系の進路を進むことになります。気がつくと、水族園の飼育員となってはや30数年。北極から南極までさまざまな海に潜り、さまざまな生物の飼育や繁殖を経験し、ジャイアントケルプやアマモなどの飼育にも携わりました。それでも子供の頃の遊び相手だった、ヤマメやトウキョウサンショウウオ、カエルが忘れられずにいます。

 この先もずっと身近でいられるように、生物の魅力を伝え、減り続ける生物や生息環境に少しでも興味や関心をもっていただき、「大切に思う気持」を醸成していくことが私たちの役割の一つではないかと考えています。みなさんの周りにはどんな生物がいるでしょうか。身近な生物のくらしにも目を向けてみてください。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 中村浩司〕

・連載:35周年企画「水族園リーダーたちの夢」
 [1]水族園の展示に込める思い
 [2]水族園の目指す道──ずっと身近でいてほしい
 [3]水族園を背後で支える施設の維持管理の仕事に携わってみませんか
 [4]楽しく学べる水族園
 [5]海をつくりたい

(2024年05月24日)



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