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Z o o E x p r e s s ■ ズー・エクスプレス ■ No.30 - Oct 19, 2001
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都立動物園の最新情報をお届けするメールマガジン「ズー・エクスプレス」。
ライオンの琴と笙は「東京動物園友の会」 http://www.tokyo-zoo.net/member/
のイベントでも大活躍。体は小さいけれど、近くに降り立ったクジャクを狙う
すがたは“一人前”のライオンでした。
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N E W S
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■多摩動物公園■======================================================
▽琴と笙の旅立ち
今年の6月18日に当園で生まれ、夏のあいだは来園者と園内を散歩して人
気者となったライオンのメス「琴」(コト)とオス「笙」(ショウ)が新天
地に旅立ちました。
笙が静岡県の富士サファリパークに引っ越したのが9月18日。琴が盛岡市
動物公園に移ったのは9月26日です。2頭を産んだ母親「ナラ」は“母性本
能”を発揮して懸命に子育てをしていたそうですが、残念ながら母乳の出が
悪く、赤ちゃんは人間の手で育てることにしました。人間が育てると群れの
中に戻すのはむずかしいため、より条件の整った施設に引っ越すことになっ
たのです。
笙の旅立ちを知ったのは、出発の前日。突然のことでした。アフリカゾウ
「パオ」の輸送について打ちあわせに来ていた富士サファリパークの方が持
って帰ることになったのです。ふつう、動物の輸送は送り先の準備や輸送業
者の手配などがあるので、すくなくとも1週間くらい前にはわかるのですが、
まぁ、笙は体も小さいし、「さっそく持っていってもらいましょう」ってこ
とになったようです。しかし、ケージに入っているとはいえ、車の助手席に
乗って引っ越すことになりました!
出発日の9月26日、朝昼2回ミルクを飲んだ笙は、いつものようにライオ
ン舎から飼育事務所まで散歩をし、ひとしきり事務所で遊んだ後、車に乗っ
て運ばれていきました。到着当日は、人がそばにいないと寂しいのか、ミル
クを飲まなかったそうですが、今では環境に慣れ、すくすくと育っているそ
うです。
琴が移った先の盛岡市動物公園は、お祖母ちゃん「サクラ」の出生地です。
つまり、琴は盛岡にいるライオンの曾孫(ひまご)なのです。
琴の出発は朝9時でした。私はいつもより少し早く出勤し、いつもより少
し多めのミルクを飲ませ、琴と二人(?)、開園前の園内をいつもの散歩よ
り少し遠回りして、車の待つ事務所に向かいました。少し前を歩き、たまに
振り向いて「早く来てよ」とうったえるかのように鳴く琴を見ると、この夏
のことを思い出して、少しだけ感傷的な気持になりました。
盛岡市動物公園では琴の命名募集をしており、あらたな名前がつくそうで
す。富士サファリパークの笙は、同時期に生まれた子どもとたちといっしょ
になり、いずれサファリゾーンで展示されるとのことです。
〔多摩動物公園飼育課 浅見準一〕
・富士サファリパーク http://www.fujisafari.co.jp/
・盛岡市動物公園 http://www.jazga.or.jp/morioka/base/
・生後1カ月ごろの琴と笙の写真
http://www.tokyo-zoo.net/event/main2.html
■葛西臨海水族園■====================================================
▽太陽を食べる二枚貝──シャコガイ
〔特設展「軟らかな体のしなやかなくらし──軟体動物」展示種紹介[9]〕
海底に口を開ける巨大な二枚貝にうっかり足を入れたとたん、大きな貝殻
が待ちかまえていたかのようにバタッと閉まります。少年は必死にもがきま
すが、二枚の貝殻は足をしっかりとはさんだまま開きません。やがて潮が満
ちてきて……。
──子どものころ読んだこの物語の二枚貝が「オオジャコガイ」です。熱
帯のサンゴ礁域に生息し、殻の長さが1メートル以上にもなるこの貝は「人
喰い貝」として映画や物語に登場しますが、とんでもありません。シャコガ
イは、太陽を食べる貝なのです。
葛西臨海水族園の「世界の海」エリアにある「グレートバリアリーフ」と
「インド洋」の水槽をのぞいてみましょう。シャコガイのなかまである「シ
ラナミガイ」や「ヒメジャコガイ」が展示されています(シラナミガイの写
真は http://www.tokyo-zoo.net/event/ をどうぞ)。二枚の貝殻のあいだ
から鮮やかな青や茶色のドレスのすそを広げている貝がいませんか?
すそのあいだをじっくり観察すると、丸い穴が二つあるのがわかります。
じつは、これは前回紹介した「アサリの水管」にあたる部分です。ずいぶん
形がちがいますね。大きくふくらみ、広がって貝の上を覆っています。
もう一つ、貝の姿勢にもご注目ください。殻の開くほうを上にむけて、あ
おむけになっています。じつは、シャコガイの大きく広がった膜状の水管に
は、たくさんの藻が共生しているのです。サンゴの体にも共生している褐虫
藻(かっちゅうそう)という藻は光合成によって養分をつくりだしますが、
シャコガイはその養分をもらっています。つまり、シャコガイは体に野菜畑
をもっているようなもの。藻が充分に光合成できるよう、あおむけになり、
太陽にむかって畑を広げているのも納得できますね。
共生している藻にとっては、シャコガイは快適な住居をあたえてくれます
し、貝の老廃物である窒素やリンは養分になります。さらに、貝が呼吸によ
って吐き出す炭酸ガスは光合成につかえます。シャコガイは自分のいらなく
なったものと引きかえに養分をもらい、藻は家と食事を提供してもらう──
なんてうまくできた関係なのでしょう! シャコガイは藻からの栄養だけで
なく、アサリのように海水中のプランクトンなどを吸い込んで餌を食べるこ
とができるといわれていますが、水槽の中では餌をあたえなくても長生きし、
成長もします。
「足糸」(そくし)という接着糸で岩やサンゴにくっつき、ほとんど動く
ことのないシャコガイにとって、かたい殻が大事な武器です。広がった水管
には「眼点」(がんてん)があって、敵の気配を感じると貝殻を閉じてしま
います。「人喰い貝」というのは濡れ衣でしたが、大きさが1メートルもあ
る巨大な殻にはさまれてしまったら……。考えただけでも恐ろしいですね。
〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕
■読者の方からの質問にお答えします■==================================
前回、アサリの「浄化機能」についてご紹介しました。この記事を読まれ
た読者の方から、「ということは、アサリを食べるということは、汚れたも
のを食べるということなんでしょうか」という質問をうけました。うーん、
ナルホド。記事の筆者がお答えします。
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アサリが食べているのは、おもに海水中の植物プランクトンや有機物の
かけらです。イコール「汚れたモノ」ではありません。これらが海水中に
多量にある状態が「海が汚れている」状態です。そこで、それらを食べて
海水から取り除いてくれるアサリの働きを「浄化」とよぶわけです。くわ
しく説明しましょう。
東京湾のような、陸地に大都市をかかえる海には、人間の生活排水や工
業排水がつねに大量に流れこみます。これらの排水に含まれる窒素やリン、
有機物(食べ物ののこりや排泄物など)は、海を汚す原因となります。ま
た、窒素やリンを利用して増える植物プランクトンも、食べられることな
く死んでしまえば海底に蓄積して海を汚すことになります。
海の中では、植物プランクトンを動物プランクトンやアサリ、ゴカイな
どが食べ、アサリやゴカイを小さな魚やカニが食べ、それらをさらに大き
な魚が食べるという「食物連鎖」(しょくもつれんさ)によって、海を汚
す原因がとりのぞかれていきます。これを「浄化」とよびます。しかし、
この浄化装置がなければ、海の中に汚れの原因となるものがたまっていく
一方なのです。
植物プランクトンや有機物のかけら自体は、アサリやゴカイの餌になる
ものです。でもそれらが自然の浄化能力以上に多量にある、いわばバラン
スのくずれてしまった状態が「汚染」です。
もっとくわしく知りたい方は下記の本をどうぞ。干潟の生態系と機能に
ついてわかりやすく紹介されています。本書を読むと、干潟、砂浜、サン
ゴ礁など、かつて日本で見られた豊かな美しい渚の風景が頭に浮かんでき
て、私たちの失ってしまったものの大きさを痛感します。
『日本の渚──失われゆく海辺の自然』 加藤真著 岩波新書 1999年刊
〔天野未知〕
■お便り紹介■========================================================
読者の萩尾さんからメールをいただきました。
10月13日のパオのお別れ会に行ってきました。天気が心配でしたが、
日中暑いぐらいに晴れてくれてよかったです。パオも小さな運動場で元
気に動きまわってました。
記念撮影会のときは、パオがじっとしているように担当の人が餌をや
っていました。きょうはいつもよりたくさん餌をもらえたのかな。
記念撮影会とお別れ会が終わったあとで、引っ越しの準備でしょうか、
パオを輸送箱に入れるトレーニングをしていました。17日はうまくいっ
たのでしょうか。パオ、けがをしないように気をつけて、富士まで行っ
てくださいね。
お別れセレモニーへのご参加ありがとうございました! 13日は 200名ち
かくの方が記念撮影会のためにならび、最後尾はゾウ放飼場わきの通路から
はみ出るほど。17日は雨模様でしたが、パオもおとなしく輸送箱に入り、旅
立ちました。その日のうちに、無事到着したようです。富士サファリパーク
での公開日は未定ですが、きっと注目を浴びることでしょう。
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▼編集後記
シャコガイにはさまれると聞いて、手塚治虫氏の『ブラックジャック』を
思い出しました(第132話・青い恐怖)。 おぼれそうになりながら、ブラッ
クジャックはメスで閉殻筋(貝柱)を切断するのでしたが……。
予報によると、土曜日の東京地方は基本的に晴れ。日曜日はときどき曇り。
気温も「並」とのことです! BIGLOBEによる上野動物園のスポット天気予報
は http://biznews.biglobe.ne.jp/weather/data/spot/zoo216.html 。
(大平)
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メールマガジン ZooExpress No.30 - 2001年10月19日
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