ヒガシクロサイ「アルゴ」、旅立ちに向けた「箱入れ」練習

2026年9月19日

上野動物園の西園で27年間くらしてきたヒガシクロサイの「アルゴ」(メス)が、この秋、生まれた園である横浜市立金沢動物園(神奈川県横浜市)へ帰ることになりました。アルゴは1995年生まれのメスで、1999年に上野動物園へ来園。2009年には当園初となるヒガシクロサイの繁殖にも成功しました。

現在は移動に使用する、輸送箱に慣れてもらう「箱入れ」の練習を進めています。今回はその舞台裏をご紹介します。

慎重に箱に入るアルゴ
慎重に箱に入るアルゴ

サイのパワーに負けない準備から

クロサイは体重が1tを超えることもある大型動物で、驚いたときには時速45〜50kmで走ることもあります。この巨体が輸送箱の中で動けば、箱ごと動いてしまう可能性があります。箱そのものは春から放飼場に設置して慣れてもらっていましたが、中に入る練習は、箱が動かないようにがっちりと固定してからでなければ始められません。

2026年7月下旬に固定工事が完了し、8月17日からいよいよ箱に入る練習が始まりました。

固定した輸送箱
固定した輸送箱

箱入れ練習の考え方

箱入れの工程は大きく2つに分かれます。(1)箱に問題なく入る、(2)「ません棒」(出入口をふさぐ横棒)を入れても落ち着いていられる……という2段階です。どちらの段階でも、目指すゴールは同じです。動物にとって「怖いもの、場所」を「よいこと」が上回る状態をつくり、その繰り返しで「箱は怖くない」と覚えてもらう。ひとことで言えば「慣れ」です。

そのための仕事は大きく2つ。まず、安心材料を増やします。「よいこと」は好物の食べものに限らず、嗅ぎ慣れた自分のにおいなど、その動物が安心できるものすべてが候補になります。あわせて、嫌悪刺激である「動物にとって嫌なもの、怖いもの」をできる限り取り除きます。

とりわけ避けたいのは、箱の中にいるときに嫌なことが起きて、「箱=怖い場所」という結びつきができてしまうこと。一度この結びつきができると、消すのは容易ではありません。練習を毎朝の落ち着いた時間帯におこなっているのも、こうした不意の刺激を減らすためです。

どこでつまずいているのかを見極め、安心材料をどう配置するか。この見極めと環境設定が、練習の進み方を大きく左右します。

ません棒
ません棒

一歩ずつ、箱の中へ

8月17日の練習初日、箱の中と入口に青草とリンゴを置きましたが、アルゴは入口の匂いを嗅いでは放飼場の中央に戻るのを繰り返すばかりで、一歩も入りませんでした。そこで箱の中にアルゴ自身のフンを撒いてにおいの安心材料を足し、えさも好物の固形飼料に切り替えたところ、練習3回目に両前肢が箱の中に。4回目には、警戒しながらも初めて全身が入りました。

しかし、順調にばかりは進みません。一度も入らない日もあり、8月25日には体の3分の2まで入ったところでちょっとした物音に驚き、箱から出てしまいました。まさに「箱の中で嫌なことが起きた」場面です。この日は深追いせず、そのまま練習を切り上げました。無理に誘い直して再び嫌な思いをさせれば、「箱=怖い場所」の結びつきを自らつくってしまいかねないからです。

その後の練習からは、つまずいていた「後ろ脚を入れる」一歩を後押しするため、箱の奥を中心に固形飼料を撒くようにしました。その具体的な進め方は、次の写真3枚をごらんください。

撒き方① どこまで入ったかを把握するためランダムに撒く
撒き方① どこまで入ったかを把握するためランダムに撒く
撒き方①の結果
撒き方①の結果
撒き方② 限界点になっている部分までは一直線に、その先は広くランダムに撒く
撒き方② 限界点になっている部分までは一直線に、その先は広くランダムに撒く

すると8月29日には約40秒、9月1日には5分30秒、後肢まで箱に入っていられるように。入口側のません棒を閉められる位置まで入れたことになります。

ただ、まだまだ警戒するようすは見られるので、気にせず入れるようになるまで地道に練習を続けていきます。次に目指す(2)の段階は「箱に入ったあと、一時的に閉じ込める」という作業で、アルゴにとってハードルはぐっと上がります。あせらず、ハードルを上げすぎないように進めていきます。

アルゴが安心して箱に入り、無事に旅立てるよう、練習はこれからも一歩ずつ続きます。ご来園の際は、そっと応援していただければさいわいです。

〔上野動物園 西園飼育展示係〕

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