2023年10月後半、私たちはオーストラリア北部の町、ダーウィンへ生物採集に行ってきました。目的は葛西臨海水族園の「オーストラリア北部」水槽で展示をしている「ナーサリーフィッシュ」を採集し、園へ送り届けること。
じつは、ナーサリーフィッシュを日本の水族館で展示しているのは、葛西臨海水族園だけ! 世界でもここだけかもしれません。というのも、現地でもナーサリーフィッシュを知る人は少なく、今回採集に協力していただいた方々のなかにですら初めて見る方もいたほどです。
ナーサリーフィッシュ
海外での採集は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、2019年を最後に見合わせていました。そのため、4年ぶりの実施となります。前回の出張時のやり方とは変わっていることも多く、準備中は無事に採集して帰ってこられるか、不安がありました。
なにより私は初めての海外採集なので、先輩たちに「どのような場所か?」「採集のやり方は?」などたくさん聞いていたところ、「7〜8mのイリエワニがすぐそこにいる」「川が濁っていて見えないから、落ちたら終わり」「大きいカエルがその辺にいる(私はカエルが苦手です)」「採集は簡単だよ、できる!」など、とにかく不安を煽ることばかり教えてくれるのです。
緊張と不安のなか、採集が始まりました。ナーサリーフィッシュの採集には、魚を網にひっかけて獲る「刺し網」と呼ばれる漁具を使用します。川が濁っているため、網をあげてくるまで何がかかっているかも見えません。魚に傷をつけないよう、網から外れてしまわないよう2人1組で息を合わせ、船とスピードを合わせて網をあげていきます。
採集のようす
初めは本当に近くでしか魚が見えなかったのですが、徐々に目が慣れ、うまくナーサリーフィッシュを見つけて網から外せるようになりました。日本を出る前はどうなることかと不安でしたが、25個体を水族園へ無事に送り届けることができ、ほっとしました。
採集や蓄養、輸送の作業部分では「もっとこうすればよかった」と思うこともたくさんあります。ただ、不安だらけだった海外採集は、ナーサリーフィッシュやバラムンディなど、今まで水槽で飼育されている姿しか知らない魚の生息環境を直に見ることができ、とても楽しく勉強になりました。久しぶりの搬入となったナーサリーフィッシュを、ぜひ展示水槽でご覧ください。
〔葛西臨海水族園調査係 太田智優〕
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