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ナーサリーフィッシュの繁殖を目指して
 └─2015/09/18

 葛西臨海水族園の「世界の海」エリアでは1991年以来、オーストラリア北部の展示として、ノーザンテリトリーの河川に生息するナーサリーフィッシュの展示を続けています。この魚、じつは展示しているのはおそらく世界中で唯一、葛西臨海水族園だけという大変貴重な魚なのです。そして、他の魚種にはない、大変珍しい繁殖生態を見せてくれるのです。


ナーサリーフィッシュのオス。額に突起がある

 ナーサリーフィッシュはオスとメスで外見に違いのある「性的二型」の魚です。オスの額にはフック状の突起が伸びていますが、メスにはこの突起がありません。オスはこの突起を使って、メスが産んだ卵塊を自分の額にくっつけて、孵化するまで卵を守ります。この生態が「ナーサリー」(=子守)という名前の由来になっているのです。

 この子守をする行動は他の魚では見られない、とても興味深いものです。しかし私は、ナーサリーフィッシュが子守をする姿をまだ実際に見たことがありません。葛西臨海水族園の職員がオーストラリアの生息地で採集しているときに、卵塊をくっつけている個体を採集したことはあるのですが、私はその時の写真でしか見たことがありません。

 これまで、採集と同時に調査もおこなってきました。たとえば、個体の大きさと成熟度の関係を調べ、さらに文献などさまざまなデータも参考にしながら、性成熟する大きさを検討してきました。また、現地で年間を通して測定した水温や塩分濃度の記録をもとに、水質環境についても検討を進めました。

 さらに先輩飼育係が残した飼育方法も参考にし、現地調査や文献から得たデータを活用することで飼育環境を改善した結果、近年やっと繁殖可能と思われる大きさまで育て上げることに成功しました。しかし、ただ健康なだけではなかなか繁殖には結びつきません。


ナーサリーフィッシュのメス。右は黒化個体。繁殖時のメスの特徴と考えられる

 このたび展示水槽にオスとメスの大型個体を複数展示しました。しばらくすると複数のメス個体に「黒化現象」、つまり体が真っ黒になる現象が見られるようになりました。黒化現象は以前にも観察されていますが、頻繁に見られる状況は久しぶりです。

 この黒化現象こそ、繁殖時のメスに現れる特徴ではないかと私たちは考えています。しかし現在、オスには変化がなく、何か別の要因が必要なようです。

 今回、メスの黒化現象が何によって引き起こされるのか把握はできていませんが、オスにも繁殖につながる何らかの変化が生じるよう、そのためのスイッチを探しながら飼育を続けていきます。そしていつの日か、頭部に卵塊をつけたオスのようすを、さらには繁殖した子どもたちをみなさんにお見せできるよう、努力していきます。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 増渕和彦〕

(2015年09月18日)


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