ホッキョクグマ「イコロ」のトレーニング──天王寺動物園への移動に向けて
2026年10月3日
上野動物園は2015年に「イコロ」(オス、2008年札幌市円山動物園生まれ)を迎え、2016年から繁殖を目的として、「デア」(メス、2008年イタリアのファザーノ・サファリ生まれ)と同居させる試みを何度かおこなってきました。
年を重ねるごとに2頭の関係性は良好になり、交尾も確認されました。しかし、残念ながら出産にはいたりませんでした。人工授精もおこないましたが、繁殖につなげることはできませんでした。
このたび、下記お知らせでお伝えしたとおり、イコロと新たなメスとの繁殖をめざして、新しいホッキョクグマ舎が完成した大阪市天王寺動物園にイコロを移動することになりました。
輸送ケージに慣らすトレーニング開始
移動には輸送ケージを使用します。そこで現在、イコロを輸送ケージに慣らすトレーニングに取り組んでいます。
上野動物園のホッキョクグマ舎には、動物を搬出・搬入するための扉があります。この扉に接続するかたちで輸送ケージを固定し、イコロをケージ内に誘導して搬出します。
最終的には、イコロを興奮させることなく輸送ケージ内に入れ、落ち着いた状態でいることを確認したうえで、安全にケージの扉を閉めることができるよう、現在、トレーニングを計画的に進めています。
スクイーズケージでのトレーニング
トレーニングは輸送ケージが到着するよりも前から開始しました。まず、ホッキョクグマ舎にあるスクイーズケージ(治療の際に使用する檻)を使って練習を始めました。スクイーズケージは奥行が2メートル弱、高さと幅が1メートル弱で、実際に使用される輸送ケージよりも小型です。
鼻から尾まで220cmほどあるイコロにとっては窮屈なサイズで、今までイコロを入れたことはありません。試しにケージの中にえさを置いて誘導してみると上半身しか入らず、非常に強く警戒していました。
イコロにはこれまで、健康管理のためにさまざまなトレーニングをおこなってきており、どれも時間がかからずに覚えてくれました。そこで翌日から1日に2~3回、1回20分程度のトレーニングを続けたところ、9日目には落ち着いて全身を入れるようになりました。その後、犬座姿勢(けんざしせい:おすわりのような姿勢)をとるよう教えると、中でその姿勢を保つようになりました。
スクイーズケージの扉を閉める練習
第二段階として、イコロが入った状態でスクイーズケージの扉を閉める練習に取り組みました。
背後にある扉をいきなり動かすと、イコロが興奮してしまう可能性があります。そこでまず、「ケージや扉の近くで人が立てた音に慣れる」ことから始めました。
最初は少しの音を立てるだけでも足早にケージから出て行ってしまうことが多かったのですが、数日のうちに慣れ、金属音を鳴らしても扉を叩いても怖がらないようになりました。
その後は扉を閉める練習を開始しました。数センチ閉める、1割閉める、3割閉める、というふうに毎日少しずつ進めていくと、8割ほど閉めても犬座姿勢を保てるようになりました。
輸送ケージ到着
9月中旬以降、移動計画が具体的に整い、搬出のための輸送ケージが到着しました。
それから1週間後の朝、輸送ケージを搬出口の扉に固定し、イコロを誘導してみたところ、少し戸惑うようすは見られたものの、10分ほどで全身が入りました。
2回目の誘導トレーニングの際はさらに落ち着いたようすで、犬座姿勢の指示にも応じました。輸送ケージはスクイーズケージと仕様が大きく異なるので、慣れるまで少し時間がかかると予想していましたが、イコロは「ここに入って座ればよい餌がもらえる」ということを理解したようです。
次のステップとして、スクイーズケージでおこなったように扉を動かす練習に入り、輸送ケージの中でイコロが落ち着いた状態でいられるようトレーニングを進め、安全に扉を閉められるようにしていきます。
イコロの展示スケジュールや移動日は、トレーニングでのイコロの状況を最優先事項として選定します。また、移動時期によっては空調車を用いた輸送を実施するなど、安全を最優先としていきます。
天王寺動物園のホッキョクグマ新施設「ポーラーベアコースト」でイコロが活躍している姿を見ることを楽しみに、今後も健康管理と輸送ケージトレーニングに全力を尽くしていきます。
〔上野動物園東園飼育展示係〕

