アジアゾウ「アルン」のトレーニング
2026年9月24日
上野動物園では「スーリヤ」(メス、32歳)、「ウタイ」(メス、28歳)、「アルン」(オス、5歳)の3頭のアジアゾウを飼育しており、それぞれに健康管理を目的としたトレーニングをおこなっています。今回は、そのなかで一番若いアルンのトレーニングについてご紹介します。
当園で生まれたアルンは、1歳2か月ごろからトレーニングを開始しました。はじめはこちらが出したターゲットバーという棒に頭をつける簡単な動作から始め、成長に応じてトレーニングを進めてきました。
5歳になった現在では、さまざまなことができるようになっています。「PCウォール」というトレーニング用の柵越しに号令をかけながらターゲットバーを差し出すと、柵のすきまから耳を出す、鼻を出す、足を出す、尾を出す、などの項目をおこなうことができます。これらの項目には、それぞれ次のような目的があります。
耳
耳の裏側の血管に、針を刺して採血する練習をしています。血液検査をすることで健康状態をチェックするためです。耳の裏はとても敏感で、針を刺すと耳を引いてしまいなかなか採血ができません。そこで、皮膚の表面に麻酔クリームを塗って痛みを感じにくくする試みもして、安定して採血ができるようにトレーニングを進めています。
鼻
鼻汁の検査をするためにおこなっています。ゾウには「ゾウヘルペス」というゾウ特有の病気があり、とくに若齢のゾウが発症すると重篤な症状を引き起こします。発症する前段階で鼻汁からもウイルスを検出できるので、日常的に検体を採れるようにするためのトレーニングです。
鼻の中に少量の水を入れて鼻を上げさせ、鼻の奥まで入れた水を今度は鼻を下げさせて回収します。鼻の奥の粘膜を洗った水を採取するのは、検査の精度を上げるためです。これを「トランクウォッシュ」と呼んでいます。完成形まであと少しというところです。
足
爪や、足の裏の「パッド」という組織を、適切な状態に保つためにおこなっています。野生では長距離を歩いて移動することで自然と削れますが、それが少ない動物園では爪もパッドも日々伸びるため、蹄刀やナイフやヤスリなどの道具を使って削ります。何tもの体重を支える足を健康に保つことは、ゾウにとって非常に重要です。
アルンの爪はときどき小さなひび割れが生じることがありますが、現在のところ大きな問題はありません。引き続きよい状態を維持していきたいと思います。
尾
体の向きを変えて後ろを向かせ、尾や肛門周辺を触ります。尾の先の毛が生えている部分は皮膚が荒れやすく、冬場などは乾燥してあかぎれのようになるため、オリーブオイルなどを塗って保湿をします。
また、肛門については、もしも病気になった場合など肛門からチューブを入れて補液をすることがあるため、万が一に備えてふだんから触る練習をしています。ゾウにとって後方は完全な死角となるため、驚かせてアルンからの信頼を損なわないよう注意しながら実施しています。
アルンは常に同じように動いてくれるわけではなく、集中力に欠けてフラフラしたり、いらだって途中で離れてしまったり、ターゲットバーに頭突きをしてくることもあります。安定しているおとなのメスたちと比べると、私たちの方もすこし神経をつかいます。とはいえ、全体的には昨年よりも落ち着きは増してきており、体とともに精神的にも成長しているようです。
トレーニング開始当初から今までを考えると、難しく思える動きでもアルンがこちらの意図を察してくれるのが早いため、「ここまで来るのが大変だった」という印象はさほどありません。また、私たちもアルンのトレーニングを通じて、技術を向上させることができていると感じています。これからもアルンの成長に合わせてトレーニングの内容を柔軟に変えながら、健康な生活を支えていきたいと思います。
〔上野動物園 東園飼育展示係〕

