コビトカバのメス2頭に見られた繁殖から子育てまでの行動の違い
2026年5月15日
2025年、上野動物園では姉妹である2頭のコビトカバが相次いで出産しました。
まず3月14日に妹の「ナツメ」がオスの子を、そして12月25日に姉の「モミジ」がメスの子を産みました。同じ年に2頭の出産と子育てを見守ることができたことは、貴重な経験であり、今後につながる重要なデータの蓄積となりました。
同じ両親から生まれた姉妹でありながら、オスとの同居や出産、子育ての姿にはさまざまな違いが見られました。今回はそのようすをご紹介します。
オスとの同居のようす
コビトカバはふだん単独で生活し、発情期にのみメスがオスを受け入れる動物です。そのため、オスとメスが対面する場面では、2頭の間に強い緊張が生じることもあります。
動物園では、メスが発情すると、まずは柵越しに2頭を対面させ、互いの反応を慎重に見極めます。万が一、同居後に闘争に発展した場合、引き離すことは容易ではなく、双方がけがを負う可能性もあります。したがって、柵を開けて同居させるかどうかの判断は特に慎重さが求められます。
2頭のメスをそれぞれオスの「モトモト」と対面させたとき、ナツメは反応が比較的わかりやすく、判断に迷う場面はほとんどありませんでした。一方、モミジは判断に迷う場面がしばしばあり、確信を持てないまま進めることは危険なため、同居を見送ったこともありました。
また、2頭のメスは同居時のモトモトに対する反応や距離の取り方にも個体差が現れていました。
ナツメはもともと穏やかな性格で、モトモトに対して過度に身構えることなく、比較的スムーズに受け入れていました。大きな闘争や強い威嚇が見られることはほとんどなく、落ち着いた関係が築かれていきました。
一方のモミジは、ナツメに比べると気の強さが感じられ、より慎重なようすが見られました。年齢が上であることも影響してか、モトモトが距離を取る場面もあり、ナツメのときとは異なる緊張感がありました。威嚇や駆け引きのような行動も見られ、関係性を築くまでには時間を要しました。
出産のようす
出産の場面でも、2頭のメスの違いは明確でした。
出産が近づくと、陰部の腫れなどのいくつかの身体的な変化が兆候として見られることがあります。ナツメはこの変化がほとんど見られず、外見からは出産の時期を読み取りにくいところがありました。一方でモミジは明確な腫脹が確認でき、体の変化がわかりやすく現れていました。
ナツメは初めての妊娠、そして初めての出産でしたが、非常に落ち着いたようすでそのときを迎えました。
出産が近づくと担当者に対して攻撃的になったり、神経質な行動が見られたりする個体もいます。しかしナツメにはそのような変化はほとんど見られず、産室の周囲に関係者がいる状況のなかでも大きく動じることなく出産しました。
一方のモミジは、担当者に対して攻撃的になる行動は見られなかったものの、出産前から周囲の音や環境の変化に敏感になっていました。そのため、監視カメラを用いてようすを確認しながら、できる限り刺激の少ない環境を整えて見守りました。
子育てのようす
出産後の子育てでも、2頭のメスの違いはよりはっきりと表れていきました。
ナツメは子を出産した直後、最初は少し驚いたようなようすを見せました。子に対して威嚇のような行動をとる場面もありましたが、すぐに匂いを確認し、落ち着いていきました。その後は自分のペースも保ちながら子育てをおこない、子と離れて過ごす時間も比較的早い段階から見られました。野生では子が物陰に身を潜め、母親が一日に数回訪れて授乳をおこなうといわれています。ナツメの子育ては、そうした本来の姿に近いスタイルだったのかもしれません。
一方のモミジは、出産後も警戒心の強さが際立っていました。人の気配や周囲の変化に敏感に反応したため、引き続き監視カメラを中心に観察をおこないました。子に対しては非常に強い保護行動が見られ、ほとんど離れることなく常に寄り添っていました。授乳はスムーズでしたが、子から離れないため、体重測定など子の健康管理は容易ではありませんでした。
今回、姉妹2頭それぞれの出産と子育てを記録できたことで、繁殖にかかわる行動には大きな個体差があることが確認できました。オスと同居したときの反応、出産時の状況、子との距離の取り方など、その行動や傾向は2頭でまったく異なっていました。こうした記録は、今後の飼育や繁殖管理を検討するうえで参考となるものです。今後も個体ごとの行動を記録し、得られた知見を蓄積していくことで、国内のコビトカバの飼育や繁殖に生かしていきたいと考えています。
〔上野動物園 西園飼育展示係〕

