公益社団法人日本動物園水族館協会によれば、2020年12月末時点でニシゴリラは国内6つの動物園で20頭(オス10頭、メス10頭)が飼育されています。ゴリラは「シルバーバック」と呼ばれる性成熟したオスを中心に、数頭のメスとその子どもからなる家族で群れを作ってくらします。
群れの中のシルバーバックの「ハオコ」(右)
6園のうち3つの動物園では群れが形成され、繁殖もしています。しかし、上野動物園のシルバーバックである「ハオコ」と名古屋市東山動物園のシルバーバック「シャバーニ」は兄弟であり、京都市動物園のシルバーバック「モモタロウ」は上野動物園のメス「モモコ」の息子、という血縁関係にあります。残念ながら近親交配を避けるための選択肢がきわめて少ない状況です。
そのうえ、現存する幼いゴリラたちが繁殖に適した年齢になっても、うまく繁殖ペアになるかどうかは現時点ではわかりません。相性の良し悪しは不確定ですし、妊娠に結びつく交尾行動がでるかどうかわからないからです。
今後、日本国内のゴリラの個体群を適切に維持していくためには、海外の動物園から個体を導入して血液を更新することが必要です。しかし、海外の動物園からのゴリラの導入は容易ではありません。もし導入可能な動物園が見つかったとしても、法律に定められた手続きや検疫を実施するには多くの問題を解決しなければなりません。ちなみに現在、ゴリラの輸出入に必要な検疫がおこなえる施設は国内には1施設のみです。
上野動物園では近年、職員を海外の動物園に派遣してゴリラの新しい飼育方法を取り入れてきました。海外の動物園との関係を強化するとともに、人材を育成して最新技術を導入することが重要と考えました。具体的には、シルバーバックのハオコを中心として6〜7頭の群れを形成し、家族で24時間過ごせるようにしました。
2017年10月9日に生まれたオス「リキ」(2017年11月28日撮影)
現在、上野動物園ではゴリラの群れの中で子が生まれ育っています。子は家族に見守られ、さまざまな経験をしながら多くのことを学んでいます。飼育係は、ゴリラの健康を守るために居住空間や遊具、食事などについてさまざまな配慮をしています。とくに、食事については肥満症などにならないよう、細心の注意をしています。バナナなどの果物や野菜の中には甘くて糖質を多く含むものがあります。そうしたものは避け、木の葉など繊維質を多く含むものを与えるようにしています。飼育係は栄養バランスや運動量などを考え、好物を小分けにして居住スペースのあちこちに隠し、ゴリラが食べ物を探索しながら食事ができるよう工夫しています。
ゴリラが動物園で健康に過ごし、命をつないでいくことができるよう、飼育管理方法の改善には終わりはありません。
恩賜上野動物園長
福田豊
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