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限りない挑戦[4]神の鳥ライチョウの保全
 └─2021/01/30
 気象庁によると、2020年の日本の年平均気温は1898年の統計開始以降、もっとも高い値を記録しました。昨年は記録的な豪雨や日照不足など、気候変動の影響を実感する年でした。地球温暖化による気候変動は、日本固有の野生動物種の生息にも大きな影響をおよぼしています。

 上野動物園では公益社団法人日本動物園水族館協会の加盟園館として、2015年から国のライチョウ生息域外保全事業に参画しています。ライチョウは、北半球の中緯度から高緯度にかけて生息するキジ目キジ科の鳥で、日本のライチョウは最南端に分布し、「神の鳥」として知られます。1980年代には約3,000羽が生息していましたが、キツネやテン、サル、シカなどの高山帯への侵入、地球温暖化による環境の変化などにより、2000年代には2,000羽弱に減少したといわれています。このままでは、氷河期から生き残ってきたライチョウの絶滅が危惧されます。


野生のライチョウ

 中央アルプスでは1969年を最後にライチョウが見られなくなっていましたが、2018年、約50年ぶりに1羽の生息が確認され、無精卵を産み、抱卵していることがわかりました。羽毛の遺伝子を調べたところ、性別はメスで、乗鞍岳もしくは北アルプスから飛来した可能性が高いことが判明しました。

 2019年、このメスによる産卵が確認されたため、乗鞍岳の野生ライチョウから採取した卵と入れ替えました。5羽が孵化しましたが、孵化後10日までにすべてのひなが死んでしまいました。
 2020年にもメス1羽が単独で生息していることが再確認されました。そこで今度は、ライチョウを飼育している国内各地の動物園から集めた有精の可能性のある卵8個(上野動物園2個、那須どうぶつ王国3個、いしかわ動物園2個、市立大町山岳博物館1個)と交換しました。抱かせた卵が無事に孵化して育成した場合、飼育卵から生まれたライチョウが野生に戻る初めての例となり、ライチョウ保護の大きな一歩になるとして期待を寄せていました(2020年6月5日記事)。


上野動物園で生まれ、2020年6月3日に中央アルプスに移送した卵。産卵日は左が5月29日、右は6月2日

 しかし、その後の調査で5羽は孵ったものの、全羽が育つことなく死んでしまったことがわかりました。野生ではライチョウのひなの死亡率が高いことが知られています。捕食者や天候の急変など、自然界ではひなは常に生命の危機にさらされています。そうした危機の増長に、私たち人類の振る舞いが大きく関わっていることを忘れてはなりません。

 恩賜上野動物園
  園長 福田豊

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(2021年01月30日)



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