ニュース
限りない挑戦[1]──ジャイアントパンダの繁殖(3)
 └─2017/07/30

 中国野生動物保護協会によれば、ジャイアントパンダは野生に1,864頭、飼育下に464頭の合計2,328頭がいます。多くは中国にいますが、中国以外では、14か国19施設で54頭が飼育されています。ジャイアントパンダの頭数は増加の傾向にありますが、絶滅が心配される状況は変わりません。

 動物園でジャイアントパンダを繁殖させるのはとても難しいこととされています。交配には雌雄の相性が重要なこと、偽妊娠という現象があること、新生児がとても小さく死亡率が高いことなどがその理由です。これに対して人工授精や母親の子育てを支援する技術が開発され、ジャンアントパンダの繁殖に応用されています。



 上野動物園でも母親「シンシン」の子育てが順調に進むようにサポートしています。落ち着いて授乳できる環境の整備、乳房マッサージ、子を圧死させないようシンシンへの注意喚起、水分やタケノコの補給などです。シンシンから子を取り上げ身体検査をするのも、母子の健康状態を正確に把握するためであり、定期的に実施しています。

 また、妊娠期間中から尿中ホルモン代謝物の測定、サプリメント、高感度カメラ、人工ミルク、保育器などさまざまな機器や技術が駆使されています。



 もっとも頼りになるのは先輩飼育係が残してくれた飼育記録です。日々の出来事が詳細に記録された飼育日誌の綴りは、現在第157冊です。ここには45年にわたる上野動物園のジャイアントパンダの飼育のすべてが記録されています。飼育日誌第1冊の1ページ目には、「1972年10月28日(土)曇、カンカン、ランラン、18:50無事羽田着、20:30動物園着……」と記されています。上野動物園の挑戦はこの時から始まり、そして今もシンシンの子育て支援などが24時間態勢で続けられているのです。

 ところで、2003年に中国でジャイアントパンダの野生復帰事業が始まりました。2006年にはジャイアントパンダを野生に返す試みがおこなわれています。野生復帰は、生息域内の保全、そして動物園を含む生息域外の保全が連携協力して進められる壮大な事業です。ニュースなどでご覧になった方もいらっしゃると思いますが、飼育係がジャイアントパンダの着ぐるみを着て飼育作業に従事する中国での光景は少し滑稽に見えるかもしれません。

 しかし、野生に復帰させる個体を育成するためには、乗り越えなければならない技術的な課題がたくさんあります。そしていつの日か、上野動物園生まれのジャイアントパンダが中国での野生復帰事業に貢献することを夢見ながら、私たちの限りない挑戦が続きます。

・関連記事
 「限りない挑戦──ジャイアントパンダの繁殖[1]」(2017年5月26日)
 「限りない挑戦──ジャイアントパンダの繁殖[2]」(2017年7月7日)

〔恩賜上野動物園園長 福田豊〕

(2017年07月30日)


ページトップへ