上野動物園では、終戦からわずか3年後の昭和23年(1948年)4月10日に、「子ども動物園」を開園しました。戦後の混乱期でまだ娯楽の少なかった子どもたちのために、動物と間近に接することのできる日本初の施設でした。場所は日本鳥舎の辺りでした。
昭和23年(1948年)、子ども動物園開園
発案者の古賀忠道園長は雑誌に、「子どもたちにおとなしい動物をあずけると、二つのまったく相反した行動があらわれる。それは、動物たちを、ほんとうにかわいがることと、これをいじめて喜ぶことである。(中略)しかし、私たちは、子どもたちの行動のうち、動物をいじめる傾向をできるだけおさえて、かわいがるという心をのばしてやるべきだと考える」と述べています。
また、「子ども動物園のじっさいの運営は、ひじょうにむずかしいと思っている。(中略)とくに動物をよく知り、かつ子どもたちを理解した、優秀な指導者が必要である。というよりも、適当な指導者があるかどうかは、この子ども動物園の成功するか否かのわかれ道であるといえよう」とも書いています。
日本初の子ども動物園の開園から69年となる今年(2017年)7月11日、上野動物園は子ども動物園をリニューアルし、「子ども動物園すてっぷ」としてオープンしました。「小さな子どもが初めて動物に出会う場、そして動物や自然について学びはじめる最初の一歩となる場にしたい」という気持ちを「すてっぷ」という言葉にこめました。
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3歳までを対象とした 「はじめてルーム」 | 身近な生物について学べる 「しのばすラボ」 | 小さな動物を用いた体験プログラム「わくわくベース」 |
開園当初からいだいてきた「子どもたちに動物の温もりを伝える」という理念を継承しつつ、今回のリニューアルでは動物をかわいがる気持ちや科学への好奇心を芽生えさせることができるよう、子どもの年齢に合わせたさまざまな展示や体験プログラムを展開します。そのために、子どもと動物との間に職員が入り、動物とのふれあいの橋渡しの役目を果たします。
新しい子ども動物園で、たくさんの子どもたちが動物とのふれあいを体験し、動物の温もりを感じてほしいと考えています。子ども動物園での体験や学習を通じて身近な生きものについて関心を持ち、自然や生きものを大切にする新しい「すてっぷ」を踏み出してほしいと願っています。
子ども動物園を訪れる子どもたちに期待することがあります。
一つは、「視野を地球にまで広げる」ことです。上野動物園は世界中の野生動物を飼育展示しています。ぜひ、遠い国々や生息地のことにまで想像をふくらませてください。
もう一つは、「夢はハッピーエンドである」ということです。人間が野生動物のためにできることはたくさんあります。生活習慣を少し見直すだけで野生動物と人の未来は大きく変わります。明るい未来をひらいてほしいと思います。
そして最後に、「記憶に残る楽しい思い出を作る」ことです。おとなになっても心に残る、楽しい思い出をたくさん作ってください。
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〔恩賜上野動物園園長 福田豊〕
(2017年08月06日)