ニュース
限りない挑戦[5]ルリカケスの里帰り
 └─2021/02/06
 上野動物園で飼育しているルリカケス2羽が2020年11月22日、鹿児島県の鹿児島市平川動物公園へ移動しました。2羽のうち、オスは上野動物園で繁殖した個体、メスは2019年3月に奄美大島で保護された個体です。平川動物公園では繁殖に取り組みます。新しい環境でも元気に過ごし、希少な動物種の保全へと繋がるよう期待をしています。

上野動物園から移動したルリカケス(提供:平川動物公園)

 ルリカケスは奄美大島などに生息する日本の固有種で、鮮やかな瑠璃色の羽根が特徴です。カラスのなかまですが、体はハトと同じくらいの大きさです。奄美大島に生息し、天然記念物に指定されています。林にすみ、植物の根や木の実、昆虫、小型の爬虫類などを食べます。繁殖期は2〜4月で、巣は草むらのなかや木の洞などにつくり、1回に4個の卵を産みます。繁殖期以外は群れでくらしています。

 上野動物園では1929年から飼育が始まりましたが、1965年に飼育個体が死亡してから約30年間、飼育していませんでした。1995年に施設がオープンしたのを機にふたたび飼育が始まりました。しかし、2000年にはオス1羽となり、ルリカケスの生息域外保全に取り組むためには、新たなメスの導入が必要となっていました。

 2008年、公益社団法人日本動物園水族館協会はルリカケスを血統登録種に指定し、生息域外保全計画を策定しました。上野動物園では、計画にもとづき、2009年から捕獲許可を取得して野生個体の導入の準備を進めました。

 ルリカケスは通常、4羽前後のひなを育てますが、体重の軽い小さなひなは成長率が悪いことが知られています。孵化後7〜14日で羽が生え始め、約25日で巣立ちます。そこでNPO法人奄美野鳥の会と協力して林の中に巣箱を設置し、巣箱にはデジタルカメラをセットして、撮影された画像を電子メールで動物園に送ってもらい、ひなの成長を確認することにしました。

 2013年以降は、ひなのうち最も体重の軽い個体の羽毛数本を送ってもらい、PCR法で性別判定をおこないました。そして、個体を上野動物園で飼育するために職員が現地におもむきました。親鳥がいないことを確認し、ひなを巣箱から取り出し、クーラーボックスを改造した輸送容器に入れ、保温と脱水に注意して上野に向けて出発しました。巣箱から上野動物園まで約7〜8時間かかります。輸送中はひなが脱水により衰弱する危険があるので、途中で職員がひなに給餌と水分補給をおこないました。上野動物園に到着したひなは、動物病院で検疫をおこない、動物舎に移した後は飼育係がひなを育てました。

 ルリカケスは日本の固有種であるとともに、分布域や生息数がかぎられています。万一、病気や災害等で生息域内の個体数が減少しても、トキやコウノトリのように動物園で飼育個体群が維持できていれば絶滅を回避することができます。上野動物園では、今後も平川動物公園や奄美野鳥の会と協力しながら、ルリカケスの生息域外保全に取り組んでいきます。

 恩賜上野動物園
  園長 福田豊

・関連記事
 「限りない挑戦[1]ジャイアントパンダの繁殖(1)」(2017年5月26日)
 「限りない挑戦[1]ジャイアントパンダの繁殖(2)」(2017年7月7日)
 「限りない挑戦[1]ジャイアントパンダの繁殖(3)」(2017年7月31日)
 「限りない挑戦[2]子ども動物園のリニューアル」(2017年8月6日)
 「限りない挑戦[3]アジアゾウの繁殖」(2021年1月21日)
 「限りない挑戦[4]神の鳥ライチョウの保全」(2021年1月30日)
 「ルリカケス2羽が平川動物公園に移動しました」(2020年11月29日)

(2021年02月06日)



ページトップへ