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続々・新たな視点で見てみると[32]1つの細胞から1つの生命へ:アカハライモリの胚発生
 └─2019/06/21

 井の頭自然文化園水生物館では、かつて身近な水辺で普通に見られたアカハライモリを飼育し、展示しています。その展示水槽や裏の繁殖用水槽で観察された、イモリたちの興味深い姿をお伝えするアカハライモリ特集第8回です(過去の記事は末尾をご覧ください)。

 前回、メスが水草の葉を後肢で寄せ集めて卵を産むようすをお伝えしました(続々・新たな視点で見てみると[31]葉を寄せるしぐさがユーモラス:アカハライモリの産卵)。

 卵は水草の葉にうまく隠れるように産み付けられていることが多いのですが、今回は一部の葉をはがして胚発生(卵の成長)を観察しました。


ゼリー状の物質に包まれた卵本体の大きさは直径2~3ミリ。
産み付けられて数時間後には卵割(細胞分裂)が始まる

 胚発生のようすを始めから撮影するためには、生まれたばかりの卵を見つけなければなりません。お腹の大きなメスの行動に注意し、観察しやすそうな場所に卵を産んだら即、撮影用の小型水槽に水草ごと移動して撮影開始です。


【動画】水温などによって成長スピードが変わる。今回の卵は
産卵後12日で孵化した。そのようすを3分30秒に凝縮

 産卵後数時間経つと卵割が始まり、2、4、8、16と細胞数が増えていき、クワの実のような桑実胚(そうじつはい)と呼ばれる段階にいたります。この頃は細胞がまだ大きいので、卵の上部から下部に向かって分裂が進んでいくようすが見えます。

 分裂がさらに進むと、内部に空洞ができる胞胚(ほうはい)、表面の細胞が内部に取り込まれていく原腸胚(げんちょうはい)、脳や脊髄の元が作られる神経胚(しんけいはい)、頭や尾が作られ始め、体が前後に伸びてくる尾芽胚(びがはい)と成長していきます。高校で生物を習った方は「シュペーマン」「原口背唇部」「オーガナイザー」なんて言葉が思い出されるのではないでしょうか。

 産卵6日後には、透明なカプセルの中で動くようになり心臓の拍動も見えます。7日後には、頭の後ろに指のような器官ができて前肢のようにも見えますが、ここは鰓になり、さらに後ろにある小さな突起が前肢になります。10日後にはさかんに動くようになり、12日後に孵化しました。

 次回は孵化した幼生の成長をお見せする予定です。

・アカハライモリ特集
 第1回:続々・新たな視点で見てみると[25]ひょっこり顔出し憎めぬしぐさ:アカハライモリの愛嬌
 第2回:続々・新たな視点で見てみると[26]食べる、飲み込む、噛みつく:アカハライモリの食事
 第3回:続々・新たな視点で見てみると[27]そんなもの美味しいの?:アカハライモリの隠れた好物
 第4回:続々・新たな視点で見てみると[28]オシャレに色づくオスの尾っぽ:アカハライモリの婚姻色
 第5回:続々・新たな視点で見てみると[29]初めピラピラそしてクネクネ:アカハライモリの求愛行動
 第6回:続々・新たな視点で見てみると[30]メスもピラピラそしてクネクネ:アカハライモリの求愛行動?
 第7回:続々・新たな視点で見てみると[31]葉を寄せるしぐさがユーモラス:アカハライモリの産卵

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 三森亮介〕

(2019年06月21日)


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