生き物は、厳しい自然界を生き抜くために、それぞれが興味深い技や体の仕組みをもっています。今回は「世界の海」エリアの「インド洋2」水槽のオニダルマオコゼを紹介します。写真①を見てください。ポツンと真ん中に1尾のオニダルマオコゼが写っているように見えます。しかし、よく見ると写真右下のあたりに眼があります。
写真①
ポツンと1尾? のオニダルマオコゼ
じつは少し砂が被っている右下の「岩」のようなものもオニダルマオコゼなのです! ゴツゴツとした体表(写真②)に、カイメン(写真③)のようなオレンジ色やクリーム色のスポット(写真④)があり、砂がのっている姿はまさに「岩」のようですね。
オニダルマオコゼは岩に擬態することで、気づかずに近づいてきた小魚やカニ、エビなどの甲殻類を食べます。食べるときの動きはすばやく一瞬で、えさはまるで消えるようになくなります。
写真②
「岩」になりきるオニダルマオコゼ
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写真③ オレンジ色のカイメンの一種 | 写真④ オニダルマオコゼの体表の拡大写真 |
また、オニダルマオコゼは、ほかの魚ではあまり見られない、特別な体の仕組みをもっています。なんと「脱皮」をするのです。
写真①と写真②に黄色っぽいふわふわしたものが写っていることに気付きましたか? これは脱皮したオニダルマオコゼの古い表皮なのです。甲殻類が丸ごと脱皮するのとは違い、ペリペリと少しずつはがれるように脱皮をします。甲殻類は大きくなるために脱皮をしますが、オニダルマオコゼは体表の汚れやコケをきれいにするために脱皮をすると考えられています。
写真①の真ん中に写っているオニダルマオコゼはまさに脱皮中で、体を大きく震わせて泳いだときに表皮がはがれるのを目撃し、びっくりしました。よく見るとまだ胸ビレのふちに少しくすんだ部分があり、脱皮の途中であることがわかります。
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古い表皮が残っているオニダルマオコゼ | 水槽に残っていた古い表皮 |
脱皮をしたあとのオニダルマオコゼはスッキリしたように見えますが、そのあとのお掃除が大変です……。脱皮は夜のうちにおこなうことが多く、古い表皮は水槽の循環を詰まらせる恐れがあるので、飼育係が朝のうちに掃除をしています。しかし、目を凝らして見てみると、完全に脱皮しきれていないオニダルマオコゼや、飼育係が掃除しきれなかった古い表皮が観察できるかもしれません。ぜひ、じっくりとオニダルマオコゼを見に来てください。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 川上七海〕
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