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脱皮する魚、ワーティプラウフィッシュの展示
 └─2009/07/31

 葛西臨海水族園の世界の海「オーストラリア西部」の水槽では、水中を漂う海藻に擬態したリーフィシードラゴンがお客さんの目を引きつけますが、水槽の底にいる生物にも目を向けてください。岩のくぼみなどに体を沿わせるようにしてじっと動かない魚がいます。魚屋さんで見かけるような魚とはちがい、ペナントのような、横に長い三角形の体をもち、ゴツゴツした岩のような見かけをしています。この魚の名前は、ワーティプラウフィッシュ。

 カサゴのなかまで、おもにオーストラリアの南西部やタスマニア海域に分布しています。一見あまり活動的ではなく、地味な印象の魚ですが、水槽にいる個体はそれぞれ体色がオレンジ、茶、黒と異なります。この体色の違いを使って個体を区別し、与えた餌の種類や数を記録しています。

 朝、水槽を見て回っていると、ワーティプラウフィッシュの脱皮殻が水槽の底に落ちていることがあります。カニやエビの甲殻類は、成長にともなって窮屈になった古い殻を脱ぎ捨て、ひとまわり大きな殻を作り直します。

 魚類にも脱皮をする種類がいくつか知られていますが、とりわけワーティプラウフィッシュの脱皮はみごとです。魚が脱皮する際、体の皮がボロボロとはがれ落ちる場合もありますが、ワーティプラウフィッシュでは、体の形がそのまま残った、きれいな脱皮殻が見つかることがよくあります。

 エビやカニの脱皮殻が水槽に残っていると、お客さんから「死んでいるよ」と教えていただくことがあります(決して死んでいるわけではありませんので、ご安心ください)。しかし、魚の脱皮はめずらしいせいか、そのようなご指摘を受けることは、今のところあまりありません。

 ワーティプラウフィッシュの体つきを見るとわかるかと思いますが、あまり泳ぎが得意ではないようです。給餌するときは棒の先につけた餌をつけ、近づけてやるのですが、自分から餌に向かって泳いだり、餌を追いかけたりすることはあまりありません。口もとに運ばれてきた餌を「パクッ」と食べ、その後もじっとしていることが多い、のんびり屋さんの魚です。

 あまり活動的ではない魚ですが、ときどき「何でこんなことをするの?」と不思議に行動を見せることがあります。たとえば、泳ぐときには大きな胸びれをゆっくりパタパタと動かしたり、口から吸い込んだ水を小さなエラぶたの穴から吐き出し、その推進力で前進したりするのですが、移動先に到着すると、体を大きくゆったりと左右にゆすることがあります。岩の上で波にゆれる海藻に変身しているつもり?かもしれません(本当のところは分かりませんが)。

 ワーティプラウフィッシュに触ると「グッグッ」と鳴くことがあります。何といっているのか、一度聞いてみたいものです。水槽の中ではあまり目立ちませんが、じっくり観察するとなかなか愛嬌がありユーモラスな魚、ワーティプラウフィッシュを葛西臨海水族園でぜひごらんください。

写真上:水槽内のワーティプラウフィッシュ
写真下:ワーティプラウフィッシュの脱皮殻

〔葛西臨海水族園飼育展示係 笹沼伸一〕

(2009年07月31日)



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