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アフリカゾウの係留トレーニング
 └─ 2024/05/03
 多摩動物公園に来園した際、アフリカゾウのオス「砥夢」(トム)の肢にチェーンが巻かれている光景をご覧になった方もいるかと思います。何をしているのかというと、ゾウを一定箇所につなぎ留めておくための係留トレーニングをおこなっています。

 今回、砥夢の抜牙をおこなうことになり、昨年度より新しく係留トレーニングを開始しました。ゾウはとても大きく重い動物です。ゾウに悪気がない少しの動作でも人が巻き込まれたら致命傷になりかねません。そのような事故はゾウと人の双方にとって不幸です。

 そのような理由で多摩動物公園では安全確保のため、柵(以下、PCW:Protected Contact training Wall)越しにゾウと接しています。ゾウと同じ空間に飼育係が入ったり、柵越しでも極端に近づいたりすることはしません。しかし、今回の抜牙のように必要に応じて治療のためにゾウと同じ空間の中に入って作業しなければならない特殊な場面があります。その際に係留することは安全に治療などをおこなううえで大きく役に立ちます。

 砥夢に少しずつ係留に慣れてもらうため、トレーニングを大きく3段階に分けておこないました。

 1.アンクレットに慣らす
 2.チェーンに慣らす
 3.アンクレットとPCWをチェーンで繋ぐ練習


 最初は肢にアンクレットを装着することに慣らしますが、いきなりそれを巻くと警戒してしまうので、その前段階としてわら紐を使って足首に物を巻き付けることから慣らし始めます。

わら紐アンクレット


 PCW(PCWを使用したトレーニングについてはこちらの記事をご覧ください)の開口部より肢を出させてわら紐を装着し、慣れてきたら少しずつ紐を太くし、最終的にアンクレットを装着できるようにしていきます。

前肢アンクレット


アンクレットを右前肢に装着する


 次のステップはチェーンの感触や音に慣らしていくことです。まずアンクレットに短いチェーンをつけることから始めました。

長さが異なるチェーン


 慣れたら徐々にチェーンを長くしていきます。最初は20cm程度から始め、最終的に70cmほどのチェーンまで装着できるようにしました。

 ここまで来たら最後にアンクレットとPCWをチェーンでつなぐ練習です。これを一番慎重に進めていく必要があります。なぜなら、いきなりチェーンで繋いで自由に動けなくなる状況を作ってしまうと、砥夢がパニックになり、それ以降トレーニングに協力してくれなくなってしまう可能性があるからです。そこで係留に慣れるまではプラスチック製の結束バンドを使用しました。

プラスチック製結束バンド



後肢アンクレットに結束バンド装着。赤丸部分が結束バンド


 結束バンドは、アンクレットとチェーンをつなぐのに使用するもので、ゾウの力で簡単に引きちぎることができます。砥夢が係留チェーンの長さ以上に離れてしまおうとした際に、この結束バンドが切れて自由に動けるようになります。とは言え毎度も結束バンドをちぎって自由になられていては練習にならないので、飼育係は結束バンドがちぎられないように上手く砥夢を誘導して慣れさせる必要があります。

四肢係留


 こうして徐々にチェーンで繋がれることに慣れてもらい最後に係留をおこないます。

 このような行程を経て係留トレーニングができるようになるまで約1年かかりました。飼育動物に協力してもらい根気強くトレーニングをおこなうことで、万全の治療とケアをできるようにすることも飼育係の仕事のひとつです。今後も砥夢が苦痛なくすごせるような健康管理をおこない、日々の生活の質をより高めていけるように努力を続けていきます。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 森〕

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