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PCウォールを使ったアジアゾウのトレーニング
 └─2013/09/27

 多摩動物公園のアジアゾウ舎では、プロテクテッド・コンタクト・ウォール(以下、PCウォール)という準間接飼育用の柵を利用したアジアゾウのトレーニングを、2013年4月から開始しています。

 ゾウのトレーニングには、飼育担当がゾウに直に近寄っておこなう方法もありますが、PCウォールを使用することで、飼育係とゾウの双方がより安全にゾウの健康管理をおこなうことを目的としています。

 ゾウの健康管理で重要な項目に、四肢のケアと採血があります。ゾウの四肢は3000〜4000キログラムもの体重を支えており、肢1本に1000キロ前後の重さがかかっていることになります。そのため1本でも異常をきたすと、生命にかかわる問題となります。しかし急に削蹄や傷の消毒をおこなおうとしても、ゾウは当然受け入れてくれるはずはありません。そこで足や耳への刺激に対し気にしないように、ふだんからトレーニングをして慣らすことが大切です。

 しかし、一度にすべての項目についてトレーニングすると、ゾウは混乱し、逆にトレーニングを受け入れなくなる可能性があります。

 まずは四肢のケアをおこなうためのトレーニングから始めました。飼育係が指定した肢をPCウォールの中央にある扉から出すトレーニングです。この扉は個体の大きさや、前後肢によって高さを変えられるよう3つに分かれています。初めは一番低いところに肢を乗せるように促し、できた場合は褒めて褒美の餌を与えます。次の段階は、角材などを使用して少しずつ高さを上げ、2つ目の窓から肢を出す練習に進みます。こうすることでゾウは少しずつ肢を高く上げると同時に、自分が最も楽な姿勢を見つけるようになります。トレーニングは時間をかけ、ゾウに考える機会を与え、少しずつ段階を踏んでいきます。

 餌で誘うなんて……と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、治療のためにあの巨体に麻酔をかけるのは、ゾウにとって命がけの作業です。ゾウは長時間横になっていると自分の体重で内臓などを圧迫してしまう可能性があるからです。そのためこの日々のトレーニングは大変重要です。

 アヌーラ(オス、60歳)、アマラ(メス、8歳)、ヴィドゥラ(オス、6歳)の3頭とも積極的にトレーニングをおこなっています。日々進歩しているゾウのようすをぜひ、ごらんになってください。

写真:トレーニングの成果で肢裏のケアができる

〔多摩動物公園南園飼育展示係 藤本卓也〕

(2013年09月27日)



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