多摩動物公園で飼育するアフリカゾウの「
砥夢」(オス)への挑戦の記事も3回目となりました。これまでの記事(
その1、
その2)では新しい取組みによって砥夢の探索行動や行動範囲が増え、自ら考えて行動するようになったとお伝えしてきました。今回は新たな給餌の取組みの一部をご紹介したいと思います。
ゾウを含む多くの野生動物は、活動時間の大半を、えさを探したりたべたりする行動に費やします。しかし、飼育下ではその行動が、人が用意した環境のなかだけでおこなわれるため、どうしても採食時間が短くなりがちです。また野生で見られる、えさを手に入れたり、採食したりする際の種ごとに異なる独特な行動(たとえばゾウであれば鼻を伸ばして枝を折り取るなど)も少なくなってしまいます。このような状態に動物が長く置かれることは、心身の健康が損なわれることにつながります。体の大きなアフリカゾウも例外ではなく、長期的な健康維持のためにも給餌方法の変更は避けては通れません。
そこで私たち飼育係は、砥夢への挑戦としてえさの入れ物(フィーダー)をいろいろ考えて設置していきました。設置にあたっては、発現させたい行動や目標を設定し、ゾウや人にとっても安全な用具や方法を検討したうえで進めていきます。今回はその一部をご紹介します。
投げ込みフィーダー
えさを追加するときや、砥夢が暇そうにしているときにあたえます。また、フィーダーの種類によってえさを取り出す難易度も少しずつ違います。さらに、日によってあったりなかったり、与える時間も変えることによって砥夢に給餌の予測をさせず刺激を与えることができます。
消防ホースで作成したフィーダーから乾草を取り出す砥夢
ブイフィーダー
根菜類、ペレット、ヘイキューブ(サイコロ状に固めた乾草)など細かいえさを入れて使用します。ブイによって、振ってえさを取り出せたり、回転させて取り出せたりと使用方法が異なります。それぞれ取り出し方を考えて砥夢は使っているようです。
ブイを使用する砥夢
枝山
その名のとおり枝の山です。キリンやチンパンジーが食べ残した枝を再利用しています。なかにえさを隠すことにより、枝をどかしてえさを探すという行程が追加されます。また、ゾウはこれらの枝もバリバリと食べてしまいます。
枝山から枝を食べる砥夢
ヘイネット
ネットには青草や乾草を混ぜたえさを詰めて置き、なかから引っ張り出します。野生のアフリカゾウは高いところにある枝葉をたべることが得意で、健康のためにも、こうした行動を飼育下で再現させることは非常に大事です。なぜならヘイネット(袋状のネット)からえさを取るためには重たい鼻や頭を持ち上げなければならず、これは健康的な体型維持には不可欠な、肩や首の筋肉を鍛えることにつながるからです。
ヘイネットを使用する砥夢
ヘイネットは地上から約6m程の高さ
このような給餌の取組みにより、採餌に費やす時間を増やすことができました。さらに、この取組みは砥夢の性格にも影響を与えているようです。砥夢は最初、フィーダーからえさを取ることが少しでも難しいと、諦めていました。最近はえさの取り方を考えて試行錯誤しているようすが見られ、ここから彼の積極性や好奇心が以前よりも高まっているのではないかと考えています。
探索行動が増え、自ら考えて行動するようになったことは砥夢の大きな進歩だと思います。今後も砥夢が健康にすごしていけるように、積極的な行動を引き出せる試みを考え、実行していきます。
ここで紹介した4つのフィーダーは全体の一部です。「ほかのフィーダーや新たな仕掛けが気になる!」という方はぜひアフリカゾウ舎までお越しいただき、その日はフィーダーがあるか、砥夢が実際にどのように使っているのか、じっくり観察してみてください。新たなおもしろい発見があるかも知れません。
(2023年03月03日)