今回は多摩動物公園のオスのアフリカゾウ「砥夢」(4歳)に実施しているトレーニングの進行状況をお知らせします。
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「アフリカゾウのトレーニング」(2008年11月07日)
砥夢は、多摩に来園した1か月後の2013年1月から昨年新設したプロテクテッド・コンタクト・ウォール(PCウォール)という準間接飼育用の柵を使用してトレーニングしています。
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「PCウォールを使ったアジアソウのトレーニング」(2013年09月27日)
トレーニングは柵越しにおこなうので、ゾウが嫌がって近づいてこないと何もできません。そのためゾウ自身がトレーニングに興味をもち、楽しむことがとても重要なのですが、その点砥夢はやる気に満ちており、トレーニングを放棄して柵から離れるということは滅多にありません。
その上、彼の能力は「新しい動作を覚えた翌日」に最も輝きます。たとえば「足を指定した場所に載せる」という動作を教えるとき、砥夢は最初、飼育係の要求が理解できず、必死の形相で足をブンブン振ってみたり柵を蹴ってみたりと、さまざまな行動を試しながらこちらの指示を理解しようとします。そして何日か経ち、どうにか一度だけ足を載せることができると、途端にその翌日からは前日までの必死さなど少しも感じさせない涼しい顔で、「これで正しいんでしょう?」といわんばかりにスッと足を載せてくるのです。
このように、ゾウ自身に考える機会を与えるという過程には、ゾウに満足感を感じさせ、精神的に健康な状態を維持するという目的もあります。
砥夢は現在、「牙の洗浄」「四肢の洗浄」「四肢の削蹄」まで習得し、最近では「耳裏からの採血」にトライ中で、こちらも近日中には習得できそうな段階まで進んでいます。
ゾウを飼育するためには、ここで紹介したトレーニングのように、野生とは異なる行動をあえて教える必要があります。それは、野生動物である彼らが飼育下という環境でも野生本来の能力を発揮して、肉体的にも精神的にも健康にくらすために必要な手段であることをご理解ください。
なお、アフリカゾウのトレーニングは現在非公開でおこなっています。どうぞ、ご了承ください。
写真上:耳裏からの採血の練習
写真下:足の洗浄
〔多摩動物公園北園飼育展示係 尹永洙〕
(2013年11月04日)