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チンパンジーの人工授精 ふたたび成功!
 └─ 2023/12/15
 多摩動物公園のメスのチンパンジー「ミル」(21歳)が、人工授精により妊娠したことが確認されました。これは、2016年から開始した人工授精の取組みにおける4回目の成功です。こちらの記事では、ミルに対する取組みについて紹介します。過去の人工授精および背景・方法については、「チンパンジーの人工授精、成功までの道のり」をご覧ください。


チンパンジー「ミル」

 ミルは通算4頭目の対象個体です。選定基準は、過去の個体と同様に、国内血統登録台帳の「血縁占有度」という数値を基準に選びました([公社]日本動物園水族館協会ウェブサイト「血統登録と繁殖計画」)。オスは「デッキー」(推定45歳)です。デッキーは野生由来の貴重な遺伝子をもちながらも交尾ができないため、人工授精をおこなうことで子孫を残し、国内で飼育されているチンパンジーの遺伝的多様性の維持に貢献できるよう取り組んでいます。

 ミルへの取組みは、2022年から開始しました。方法は、一昨年に成功した「ミカン」(メス、18歳)と同じ方法で実施しました。人工授精における重要なポイントのひとつは、人工授精をおこなうタイミングです。チンパンジーのメスは、発情すると性皮と呼ばれるおしりの一部が風船のように大きく膨らむので、その膨らみの程度を目視で確認します。また、目視だけでは不十分なので人間用の排卵検査薬も使用することで、より正確な排卵期を推定することができます。

 しかし、ミルの場合には排卵を示す時期が長かったり短かったりと安定しなかったため、人工授精に適したタイミングを判断することが困難でした。そのため、1人で判断せず複数人での話し合いを経て実施日を決定するようにしました。また、排卵期に極力近いタイミングに合わせるために、排卵検査薬の使用頻度を増やし、採血による血中のホルモンの測定などもおこないました。

 結果としては、2022年、2023年に計6回人工授精を実施し、2回妊娠にいたっています。1回目は残念ながら流産となってしまいましたが、今回は妊娠を維持しています。

 ミルは、こどものことが大好きでふだんからよく面倒をみています。きっと、自分のこどもも愛情深く育てるでしょう。まずはミルが安全に出産できるよう、体調管理やストレスがかかりにくい環境の整備に尽力していきます。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 佐藤〕

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