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チンパンジーの人工授精、成功までの道のり
 └─ 2022/02/25
 多摩動物公園では2016年からチンパンジー班、野生生物保全センター、動物病院係でチームをつくりチンパンジーの人工授精の取組みを進めてきました。

 「デッキー」(オス)は野生由来であり、その貴重な血統を残したいためです。2016年、デッキーの精液を用いて「サザエ」(メス)に麻酔下で人工授精をおこない妊娠に至りましたが、出産まであと約1ヵ月というところで母子ともに死亡するという悲しい結果となりました。

 再度の人工授精成功までには5年の月日がかかりました。いつでも人工授精に取り組めるように「採精と検査」は継続しました。採精はデッキーが自分で出した射精物を飼育係が受け取るという方法でおこないました。

 対象メスは国内血統登録書の血縁占有度という数値から選定しています([公社]日本動物園水族館協会ウェブサイト「血統登録と繁殖計画」)。

 2019年度、2020年度は対象メスに「マリナ」を選びました。マリナには飼育係が膣にブタ人工授精用カテーテルを入れ精液を注入するというトレーニングをおこないました。最初は時々怒っていたマリナでしたが、3年ほどかけて徐々に私たちを信頼し、最後にはチンパンジー班4人全員がいつでも注入できるようになりました。結果、2020年度は無麻酔での人工授精を75回おこなうことができました。さらに麻酔下での人工授精も3回おこないましたが、2年間妊娠することはありませんでした。

 そこで、今年度は対象メスを「ミカン」に変更し、なるべく多くの活発に運動する精子を注入することを目標にみんなで検証を重ねました。

 2021年8月から10月にかけ、麻酔下でミカンに3回人工授精をおこない、11月に妊娠が確定しました。成功時の注入精液には、保存液を加えて冷蔵で保存していた2日分の精液と当日採取した2回分の精液を混合し、子宮内に注入しました。メスの排卵日に関しては、性皮の変化とヒト用の排卵検査薬の結果から総合的に判断しました。1、2回目の人工授精で妊娠しなかったのはタイミングが早すぎたためと考え、3回目は人工授精をおこなうタイミングを1日遅らせてみたところ、妊娠に結びつきました。

 今回の妊娠は総勢15名ほどのチームで試行錯誤を繰り返し、協力しながらようやくつかんだ成果です。ミカンの出産予定日は2022年5月後半~6月中旬ごろです。いまのミカンは安定期に入り、よく食べよく寝て、元気に活動しています。初産なこともあり私たち飼育係の心配はつきませんが、ミカンが安心して出産できる環境を整えて、無事に出産・育児ができるように全力でサポートしていきたいと思っています。

2021年11月にヒト用妊娠検査薬で妊娠が確定しました
妊娠したミカン。少しお腹がふっくらしてきました
(撮影日:2022年2月15日)

〔多摩動物公園北園飼育展示係 野田〕

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