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限りない挑戦[3]アジアゾウの繁殖
 └─上野  2021/01/21
 上野動物園で昨年(2020年)10月31日、アジアゾウが誕生しました(お知らせ)。生まれたばかりの赤ちゃんは体重120kg、背丈は1mもありました。

誕生直後のアルン
2020年11月3日撮影

 アジアゾウの妊娠期間は約22か月あり、予定日が近くなった10月28日から24時間体制で母親「ウタイ」の出産を見守っていました。上野動物園でアジアゾウが初めて飼育されたのは1888年(明治21年)5月です。それから一度も繁殖に成功することなく132年の月日が過ぎました。この間、太平洋戦争のときにはゾウは猛獣処分の犠牲となりました。戦後に開催された移動動物園などでは、体が大きく鼻が長いゾウは子どもたちの人気のまとでした。アジアゾウの繁殖は、私たちにとって待ちに待った出来事であり、今年8月に病死した父親「アティ」(お知らせ)の命の継承でもあるのです。

 日本国内のアジアゾウの繁殖は今回を含めて14例ほどあります。そのうち4例が人工哺乳となりました。いずれの場合も、骨折などにより幼くして死亡しています。人工哺乳での赤ちゃんゾウを育てることは、いまだ簡単ではないのです。また、子育てのじょうずな個体が複数回出産していますが、国内におけるアジアゾウの繁殖例は数例しかありません。

 アジアゾウの子育てには母親から授乳が必要です。しかし、母親が興奮して子ゾウを激しく攻撃することがあるため、ウタイが出産した直後から飼育係が授乳の介添えをしました。しかし、いくら子ゾウを母親の乳首に誘導しても吸いつきません。授乳に人が介入するとなかなかうまくいかないのです。

 生後3日目の夕方、私たちは覚悟を決め、産室に母親と子ゾウだけを残し、2頭を外から見守りました。そしてその日の夜、子ゾウが母乳を飲む姿が確認できました。出産前から観察を続けてきた飼育係は、授乳の確認ができたことで一安心しました。その後、赤ちゃんゾウは一晩に数十回も授乳を受け、順調に成長しています。


2021年1月13日撮影

 12月1日からは親子の公開が始まり、子ゾウは「アルン」と名付けられました(お知らせ)。私たちは初めてアジアゾウの繁殖の難しさを実感し、今はアルンのすこやかな成長を祈っています。

 恩賜上野動物園
  園長 福田豊

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(2021年01月21日)



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