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ダイトウクダマキモドキ、冬の苦難
 └─ 2024/03/08
 多摩動物公園の昆虫生態園で飼育している昆虫のひとつ、ダイトウクダマキモドキはおもに植物を食べてくらすキリギリスのなかまです。エアコンで温度管理した部屋の中で一年中繁殖させていて、卵、幼虫、成虫がいつでもそろうように飼育しています。

 昆虫園での飼育下ではダイトウクダマキモドキのえさとして、植物の葉、リンゴ、マウス用ペレットなどを与えていて、季節によって与える植物の葉の種類を変えています。これまで、春から秋にかけては園内に生えているイタドリ、ギシギシ、スイバなどを与え、冬は購入した小松菜を与えていました。小松菜を一年中与えることができたら、えさの質と量を安定させられるのですが、それを冬限定にしている理由は農薬です。

 暖かい時期に入荷する小松菜には、栽培中に使用された農薬が残留していることがあります。ほかの動物や昆虫には問題ないレベルの残留農薬であっても、ダイトウクダマキモドキには強い影響が出ることがよくあります。冬は害虫が少なくなるので、農薬の使用量が抑えられて、ダイトウクダマキモドキが食べても安全な小松菜になるようです。

 ところが近年、真冬に入荷した小松菜であっても、食べた個体が弱ったり、全滅してしまったりすることが増えてきました。わずかに農薬が残留している可能性があり、安心してダイトウクダマキモドキに小松菜を与えることができなくなりました。そうはいっても、イタドリは冬には葉が落ちますし、ギシギシやスイバの葉も硬くなってダイトウクダマキモドキのえさには適さなくなります。

 そこで、今年はキャベツの中心部分を与えることにしてみました。外側の葉や古い葉には農薬が残留している可能性がありますが、中心部分は農薬の影響をほとんど受けていないと思われるからです。昆虫園で飼育しているコオロギ類にキャベツを与える際、外側から葉を1枚ずつ剥きながら使っているため、これを最後まで使い切らず、中心部分を残しておいてもらうことにしました。

 しかし、中心部分の白っぽい葉だけでは栄養的に不安があったので、緑色の葉も用意することにしました。モンシロチョウの飼育では、白い葉よりも緑色の葉を食べた幼虫の方が健康に育ったというデータがあったからです。残しておいてもらったキャベツの中心部分を水につけ、日光にあてると、日に日に緑色が濃くなっていきます。数日経つと根も伸びてきて、ミニチュアキャベツのようになります。


ミニチュアキャベツとふつうのキャベツ

 また、キャベツだけでは栄養素が偏ったり足りなかったりする可能性もあるので、チョウ担当が育てた無農薬小松菜を少し分けてもらったり、寒さに強くて柔らかいコハコベやクサイチゴを補助的に与えたりもしています。日を追うごとに暖かくなり、もうすぐ春本番。園内の野草がえさとして使えるようになるまで、もう少しだけキャベツで乗り切ろうと思います。


キャベツを食べるダイトウクダマキモドキ

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 角田〕

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