多摩動物公園昆虫園のバックヤードにコマツナ畑が出現しました。コマツナはタイワンクツワムシやオオコノハギス、ダイトウクダマキモドキといったキリギリス類と、モンシロチョウとスジグロシロチョウの幼虫のえさとして使用します。
昆虫園のバックヤードに作ったコマツナ畑
コマツナは初夏から秋までモンシロチョウなどの虫の猛攻撃を受けるため、多くの農家では農薬を使用して食害を防いでいます。しかし、私たちにとってはこの農薬が悩みの種です。虫に与える前に流水で農薬を洗い流すようにしているのですが、植物に吸収させるタイプの農薬もあるので、季節によっては安心して使用することができません。そこで登場したのが、昆虫園のコマツナ畑です。
畑を作った場所はもともと残土置き場だったところで、一昨年に職員の一人がバッタ用にコマツナを育て始めたのが発端です。コマツナは種から育てることも可能ですが、もっと楽な方法が昆虫園には秘伝として伝わっています。
真っ二つに切った後、地植えして3週間ほど経過したコマツナ
その方法とは、①八百屋さんで売っている根のあるコマツナを上下に真っ二つに切断する。②農薬が使われていない時期には上の葉の方はえさに使う。③下の方の根がついた茎を地面に直植えにする。という安易なものです。地植えしてから1か月もすると、吸収タイプの農薬の効力も消えるので安心して使用することができます。
一昨年植えたコマツナは昨年の春になって急に伸び始め、花をつけたあとで枯れてしまいました。今年になって、毎日コマツナを使用している別の職員が「秘伝を使えば、意外と簡単に無農薬のコマツナ畑が作れそうだ」と考え、残土置き場に畑を作ることにしました。畑にうねを作り、秘伝に従ってコマツナを植え始めたところ、しばらくして植えたコマツナとは別にコマツナの芽が大量に出てきました。どうやら一昨年植えて開花した後枯れてしまったコマツナが、種を大量にバラまいていたようです。こうして、種から育ったコマツナと、秘伝に従って育てたコマツナが混在した畑ができあがりました。
飼育容器内のスジグロシロチョウ終令幼虫
チョウの飼育担当者はこうして育てたコマツナを鉢植えにし、スジグロシロチョウとモンシロチョウの卵を採取したり、幼虫を育てたりするために使っています。大きな株の場合、鉢植え1つで20~30匹のスジグロシロチョウの幼虫を3~4令まで育てることができます。大きく育った幼虫は、鉢植えのコマツナの葉が食べつくされてしまう前に別の容器に移して飼育を続けると、やがて蛹になり、10日ほどすると新成虫が羽化し始めます。
今は冬で食害も少なく、たまにヒヨドリが来て葉をついばんでいきますが、なんとか順調に育っています。しかし、春を過ぎるとスジグロシロチョウの幼虫をはじめとして、いろいろな虫がコマツナを食べに来るでしょう。薬を使うわけにもいかず、ネットで被うなどの対策が必要となると思われますが、そのときはそのとき──と考えながらコマツナ畑を見守っています。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 櫻井博〕
(2017年02月24日)