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泥──アフリカゾウ「砥夢」の暑さ対策
 └─ 2023/09/01
 泥、とは。いわずと知れた土を水に溶かしたものです。服につけようものなら洗濯が大変になるあの。しかし、一言で泥といっても活用の仕方はさまざまです。現に、人間も泥パックや洗顔で進んで体に塗ることもありますね。

 アフリカゾウの「砥夢とむ」(オス)の場合のお話をしましょう。最近は暑い日が続いており、最高気温が人の体温より高い日も珍しくありません。いくらアフリカ原産の生き物であっても、こんな日差しの中でずっと外にいてはまいってしまいます。よく「暑いのは得意ではないの?」と聞かれますが、なにもずっと日向に立っているわけではないので……。

 そんな日は水浴びに限ります。飼育係がホースで水をかけてあげることもあれば、運動場のプールで水浴びすることもあります。ただ、それだけではすぐに水が蒸発してしまいます。そこでおこなうのが「泥浴び」です。泥は水よりも保湿力があるため、乾くまで時間がかかり、粘りがあるので濡れたまま体をコーティングしてくれます。


泥浴びをする砥夢

 乾燥地帯にすむアフリカゾウは体中にたくさんのしわがあります。これは皮膚の表面積を広くする効果があり、暑いときにはより多くの熱を体から逃がすことができ、水や泥をまとえばしわに浸み込んで保水性を高める役割もあります。水浴びをして体温を下げ、泥浴びをして保湿して、さらに乾いた砂を浴びることでまとった泥を乾きにくくすることができるのです。

 ただ、必ずしもその流れで体を濡らすわけではないようで、砥夢は「水浴び→泥浴び」「水浴び→砂浴び」「泥浴び→砂浴び」など、さまざまなバリエーションで暑さ対策をしています。


せっかく泥を浴びたのにプールで洗い流している砥夢

 暑い日は必ずと言っていいほどおこなっている泥浴び。飼育係は砥夢が放飼場に出る前に泥場をつくる必要があります。

 陽の照る中でクワを担いで水を溜め、土を耕しに行くわけですが、やっているとだんだん自分が何の動物の担当をしていたのか分からなくなってきます。数10~数100Lの水を溜め、シャツの色が変わるほど汗をかきながら泥場をつくったとしても、砥夢にかかれば使い切るのはあっという間です。なんせ、背は3m近く、体重も4t以上あるわけですから。雨水が溜まった日などは、朝の日差しでお湯になってしまっているので冷たい水に入れ替える手間が増えます。それもこれも毎日の暑さを砥夢が乗り越えられるため。飼育係の地味な作業のひとつです。


担当者が泥を耕している姿

 アフリカゾウを見に来たのに運動場で飼育係が泥をいじっている。そんな場面に遭遇したら、もしかするとその後に砥夢が泥浴びをする姿が見られるかもしれません。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 野本〕

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