食べ物の好き嫌いは誰にでもあると思います。それは動物も同じです。しかし、体重の維持や健康に関わることなので、与えたえさはすべて食べきってもらうことが理想です。今回はアフリカゾウ「
砥夢」(オス)の食生活とそれに関する飼育担当者の奮闘についてお伝えします。
アフリカゾウは草食性で、野生では草、果実、木の枝葉・根・樹皮などを食べます。草食動物にとって繊維質の多いえさをたくさん食べることが健康維持のうえで重要なので、多くの動物園では草食動物に乾草(牧草を乾燥させたもの)を与えています。
砥夢には乾草や木の枝、青草、根菜類などさまざまなえさを与えており、なかでも乾草はえさの大半を占め、1日あたり約50kg与えています。多摩動物公園ではチモシーとスーダングラスという2種類のイネ科の乾草を与えていますが、チモシーをヘイネット(乾草を入れるネット)をはじめ、各種フィーダー(えさの入れ物)に入れて与えると多く残す傾向があります(
フィーダーの工夫についてはこちらの記事をご覧ください)。担当者としては、スーダングラスよりもタンパク質が多くて栄養価も高いチモシーをたくさん食べてもらいたいのですが、砥夢にとってチモシーは「苦労してでも食べたいもの」ではないようです。しかし、えさを食べる時間をできるだけ長くして、野生の状態に近づけることも砥夢にとって必要です。「採食時間を長くすること」「チモシーを多く食べてもらうこと」の2つの条件をクリアすることがわれわれ担当者の課題になりました。
そこで、チモシーとスーダングラスと青草を混ぜて与えることにしました。つまり、好きなものを混ぜていっしょに食べてもらう作戦です。とはいえ、乾草約50kgと青草約20kgを人力で混ぜることは地味に大変な作業です。
乾草と青草を混ぜてヘイネットに入れた状態がこちらです。
ヘイネットに詰めた乾草と青草
そして、砥夢が食べ終わると下の写真のようになります。
画像だとわかりづらいかもしれませんが、ほとんどのチモシーを残しています。器用な鼻先を使って、青草とスーダングラスを抜き取ってえさを食べたということです。呆れを通り越して感心してしまいます。
採食後のヘイネット
砥夢にチモシーを食べてもらうため、今も試行錯誤の日々が続いています。ちゃんと食べることもあるので少しは成果が出ているとは思いますが、まだ安定していません。
人の場合、子どものころに苦手だった食べ物でも、大人になると平気で食べられるようになることもありますよね? 砥夢にもそうなってほしいと思いつつ、成長を見守っています。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 三松〕
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