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インドサイ「デコポン」が生まれるまで(前編)
 └─2025/07/25
 2024年の9月3日、インドサイ「デコポン」(メス)が誕生しました。多摩動物公園では50年ぶりのインドサイの繁殖です。今回は前後編に分け、前編では父「ビクラム」と母「ゴポン」のペアリング(繁殖のための同居計画)について、後編ではゴポンの妊娠期間や飼育職員の取り組みについてご紹介します。デコポンの1歳の誕生日のころには、生まれてからの1年間をまとめた記事も掲載予定ですのでお楽しみに。


最近の親子(2025年7月22日撮影)

 父親のビクラムは、2002年にネパール王国から多摩動物公園に推定12か月で来園しました。一方、母親のゴポンは2020年12月に横浜市立金沢動物園から繁殖を目的とした貸借契約(ブリーディングローン)のもと来園しました(当時のニュースはこちら)。ゴポンは初めての環境に緊張していたはずですが、搬入当日から採食していたことを覚えています。

 インドサイのメスの発情は40~50日周期で起こります。発情期には「笛なき」と呼ばれる笛を吹くような鳴き声を発し、頻尿や食欲の低下など特徴的な行動が見られます。また、オスもメスの発情に反応して興奮します。ゴポンが来園してから9日後に初めて発情が確認されましたが、ゴポンがまだ新しい環境に慣れきっていないことや、飼育係がゴポンの性格を理解しきれていないこと、また、準備が不十分であったことから、このときは同居を見送りました。

 初めての同居は2021年4月21日におこないました。ところが、同居を開始すると、ビクラムはゴポンからものすごい勢いで逃げてしまったのです。ビクラムは過去、ゴポンとの交換で金沢動物園へ移動した「ナラヤニ」(メス)とのペアリング経験はあります。しかし、ビクラムとナラヤニは同じような体格で、ゴポンはビクラムよりも二回りほど大きい個体です。そのため、自分よりも体の大きなメスに驚いてしまったのかもしれません。その後もゴポンが発情するたびに同居させましたが、ビクラムは少しずつ積極的になるものの、ゴポンが誘うように近づいても逃げてしまう行動が続きました。2021年度後半にはマウントも見られるようになりましたが、すぐに降りてしまい、繁殖への道のりは依然として不安な状態でした。

 2022年度はペアリング方法を見直しました。これまではメスの発情が確認されるとすぐに同居させていましたが、インドサイは、野生では単独でくらす動物であり、発情したメスとオスがいきなり出会うことはないと考えられます。そのため、ゴポンに発情が見られてもすぐに同居させず、まずは痕跡だけをビクラムに感知させる方法を試みました。具体的には、ゴポンを出してから収容し、その後にビクラムを同じ放飼場に出し、発情したメスの痕跡を感知させました。すると、これまでビクラムに見られなかった「笛なき」や激しい興奮が確認されました。その日は同居を見送り、翌日に同居させると、ビクラムの勃起とマウント行動が確認されました。この回では交尾には至りませんでしたが、確実に進展がありました。この後の発情も同様の方法でペアリングをおこないました。

 2023年5月8日、ゴポンに発情が確認されました。この日は同居を見送り、翌9日に同居させると、ビクラムは最初からゴポンを追尾し、ついに交尾を確認しました。体格差もあり、うまく交尾できるのか心配していました。しかし、今まで何度かマウントしていたことがよい練習になったのか、しっかりと交尾体勢をとれていました。インドサイの交尾は1時間ほどかかるといわれていますが、ビクラムとゴポンの交尾は20分ほどで終了し、その後、2頭でプールに入り、穏やかに過ごしました。ゴポンの発情中に見られる行動もなくなったため、これ以上の同居は必要ないと判断し、夕方にはお互いの寝室に戻しました。


ついに交尾を確認(2023年5月9日撮影)


交尾後に2頭でプールに入るゴポン(左)とビクラム(2023年5月9日撮影)

 ゴポンが来園してから約2年、無事に交尾が成功し、50年ぶりとなるインドサイの繁殖への大きな一歩を踏み出しました。後編ではゴポンの妊娠期間について詳しくご紹介します。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 嵐田〕

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