葛西臨海水族園の移動水族館では、障がいや病気、高齢などの理由で水族園に来園することが難しい方々のいる施設に出向き、海の生きものの魅力を伝える活動をしています。みなさまに支えられ、今年度事業開始から10年目を迎えます(
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今回は、移動水族館活動初期から活躍してきた魚のなかから、チョウハンをご紹介しましょう。
チョウハンは、太平洋からインド洋(紅海を除く)にかけてのサンゴ礁域に広く分布する、チョウチョウウオのなかまで、日本では千葉県以南の太平洋側で見られます。体色は山吹色に近い黄色で、体の側面に茶色の細かいすじが斜めに入ります。
チョウチョウウオのなかまは、眼の上を通るように黒い模様が入るものが多いですが、チョウハンの場合は、その模様が両眼をまたがって左右に帯状で太く、アイマスクをしているようです。そして、その黒い模様のすぐ上を真っ白な帯が平行に通り、コントラストがとても目立ちます。
チョウハン
チョウハンという和名は、ひとつの説では、平安後期の伝説の大盗賊、熊坂長範(くまさかちょうはん)を舞台で演じる際に着ける頭巾の「長範頭巾」からきているそうです。この頭巾は、目の部分を開けるように作られた丸頭巾で、チョウハンの顔の模様が、長範頭巾をかぶったように見えるとか。由来を知ると名前に親しみがわきますね。
移動水族館のチョウハンは、全長15cmほどの2尾です。この2尾は2017年に水族園に来た当初から仲がよく、いつもいっしょに行動しています。移動水族館の活動のときももちろんいっしょです。移動水族館車「うみくる号」に積み込む魚を選ぶとき、魚どうしの喧嘩が起こらないようなメンバーを考えて頭を悩ませることもありますが、この2尾はほかの魚と小競り合いを起こした例はあまり聞いたことがありません。とても頼りになるベテランです。
移動水族館では、生きものや自然に関わる都内のイベントに出向くこともあります。もし参加する機会がありましたら、チョウハンを探してみてください。
仲のよい2尾のチョウハン
チョウハンは、葛西臨海水族園では展示していませんが、そっくりな魚は見ることができます。「世界の海」エリア「紅海」水槽のレッドシーラクーンバタフライフィッシュです。こちらは紅海にしか生息していない固有種で、日本周辺の海域では見られないため、和名はついていません。名前にあるラクーンとは英語でアライグマの意味。目の周りの黒い模様からついた名前でしょうか。こちらの名前も見た目の特徴をよく表しています。
レッドシーラクーンバタフライフィッシュ
紅海は、アフリカ大陸とアラビア半島に挟まれた細長い海域です。同じインド洋の一部ですが、出入口が狭く閉鎖的な海域になっています。このため生物の行き来が制限され、レッドシーラクーンバタフライフィッシュのような、独自に分化した種が生まれたと考えられています。
レッドシーラクーンバタフライフィッシュは、尾びれ基部の黒い模様がない点でチョウハンと区別がつきます。左右に扁平な体をいかし、岩と岩の狭い隙間を行き来したり、細い口であちこちつついたりと、愛らしい姿を見せてくれます。ぜひお楽しみください。
〔葛西臨海水族園教育普及係 高濱由美子〕
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