2024年9月3日、インドサイ「デコポン」(メス)が誕生しました。多摩動物公園では50年ぶりのインドサイの繁殖です。
前編では、父「ビクラム」と母「ゴポン」が交尾にいたるまでの経過をお伝えしました。後編では、出産までのようすをお伝えします。
2023年5月、ゴポンとビクラムの交尾が確認された後、ゴポンに定期的に訪れていた発情が止まりました。これが妊娠によるものか、周期の乱れや年齢的な要因によるものかは不明でした。インドサイの妊娠期間は約1年4か月。すぐに外見に変化が現れるわけではありません。そのため、私たち担当班は妊娠の可能性を視野に入れ、ゴポンの観察を注意深く続けました。
ゴポンの糞中性ホルモンは、定期的に岐阜大学応用生物科学部に測定を依頼しており、2023年10月には過去のゴポン妊娠時と似たホルモンの変化が確認されました。ただし、子宮や卵巣の疾患でも同様の変化が見られることがあるため、妊娠確定にはいたりませんでした。交尾の約9か月後の2024年2月から複数回、エコー検査も試みましたが、インドサイの分厚い皮膚が妨げとなり、妊娠判定はできませんでした。
2024年5月から7月になると、ゴポンのお腹が明らかに大きくなり始めました。私たちは妊娠を前提にインドサイ舎の出産準備を進めました。
まず、インドサイ舎内の柵は隙間が大きすぎて、子サイが抜けてしまうため、出産と育児に使う部屋の柵のすべての隙間をふさぎました。また、運動場のモート(脱出防止用の堀)への転落を防ぐため、柵を設置しました。さらに、夏期は通常夜間放飼をしていましたが、ゴポンが夜間に屋外で出産し、子サイがプールに転落する危険性があるほか、室内に収容できない可能性など、その後の管理が難しくなるため夜間は室内に収容しました。一方、日中は、ゴポンが自由にすごせるよう、室内と放飼場を出入り自由としました。

柵に板を貼って子サイが出られないようにしました
出産に向けた施設整備を終え、まもなくゴポンに出産の兆候が現れました。9月2日、夕方のトレーニング中に乳頭から透明な液体が出ていることを確認しました。また、室内清掃時に糞がいつもよりも酸っぱいような匂いに感じました。翌9月3日、ゴポンは朝から横になって休んでいましたが、その後のトレーニングの呼びかけに対して攻撃的な態度を見せました。この行動から出産が近いと判断し、ゴポンを終日屋内展示室で管理することにしました。その際、乳頭から白い乳汁が漏れていることを確認しました。乳汁が出てから数日以内に出産する例が多いことから、慎重に経過を見守りました。
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2023年8月6日撮影 | 出産3日前(2024年8月31日)撮影 おなかが大きくふくらんでいます |
同日昼ごろ、ゴポンの陰部から茶色い液体が排出され、破水と考えられる現象が確認されました。そして13時20分、ゴポンは出産を迎えました。その時、私はインドサイ舎内で別の作業をしていましたが、異音を感じてようすを確認すると、ゴポンの陰部から羊膜に包まれた子サイが出ているのを発見しました。出産時には母親がパニックを起こし、子サイに危害を加えることもあるため、ゴポンを刺激しないようにその場を静かに離れ、監視カメラによる観察を続けました。
出産直後、ゴポンは一時的に子サイから離れましたが、すぐに世話を始めました。子サイは何度も転びながらも約20分後に立ち上がり、2時間後には授乳が確認されました。ゴポンも落ち着きを取り戻し、15時ごろには採食を再開しました。その日のうちに後産の排出も確認され、母子ともに順調な状態であることが確認されました。妊娠期間は484日でした。

無事に生まれました!生後2日目(2024年9月4日)の朝に撮影
こうして、多摩動物公園で50年ぶりにインドサイが誕生しました。なかなか交尾がうまくいかなかったり、本当に妊娠しているのか確定しないまま出産準備を進めたりと、順調なことばかりではありませんでしたが、無事に子「デコポン」が生まれ、落ち着いて子育てをするゴポンのようすに、あらためてインドサイという動物のすばらしさを実感しました。
今回の繁殖を通じて得られた知見を活かし、今後もインドサイの飼育技術向上に貢献していきます。今後もデコポンの成長を温かく見守っていただけると幸いです。
〔多摩動物公園南園飼育展示係 嵐田〕
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