今回ご紹介するのは、人工哺育で育った後、群れに入ることができた多摩動物公園のチンパンジーのオス「ジン」です。ジンは2008年7月2日に誕生し、今年で10歳になりました。当時のようすはテレビでも紹介され、本にもなりました(『人として大切なことはチンパンジーが教えてくれる 多摩動物公園編』(2011年、徳間書店)もされています。また、過去の記事でも当時のようすをお伝えしました(下記関連記事参照)。
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ジン(1歳:右)と養母のサザエ | 現在のジン | フブキと遊ぶジン |
現在のジンは着実におとなへと成長しています。おとなのオスによく見られるディスプレイ(自分の強さをアピールする行動)も昨年(2017年)に比べて目立つようになりました。また、発情中のメスを追尾したり、逆にメスを連れ歩いたりするなど、おとなのオスらしい行動も増えました。ただ、そういった行動はジンよりも優位の「ボンボン」(オス、13歳)の目が届かないところでひそかにおこなうことが多いようです(ジンの態度はオスの「ケンタ」に対しても同様でしたが、残念ながらケンタは2018年6月29日に37歳で死亡しました。
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自分の立場が低いことはあるていど理解しているようで、優位なオスへの挨拶はもちろん、毛づくろいも見られます。また、ジンは気になるメスにも毛づくろいをします。チンパンジーにとって毛づくろいは、相手とのコミュニケーションをとる上で大切な行動です。今のうちからよい関係性を築き、将来自分が優位に立つための根回しを始めているようにも思えます。
一方で、まだまだ遊び盛りな子どもの一面も見られます。ジンは「フブキ」(オス、4歳)のよい遊び相手になっており、チンパンジーらしい「笑い声」も頻繁に聞かれます。フブキと他の個体が遊んでいると、そのようすをじーっと観察していることがあり、フブキが近寄ってくるとジンの方から手を伸ばしたり、遊びたい気持ちがこちらまで伝わってきます。
おとなに近づきつつ子どものような無邪気さもあわせもつジンですが、これからさらに心身ともにたくましく育ち、同世代のオスたちとトップの座を巡って競い合っていくと思います。チンパンジーのおとなのオス同士の争いは、単なる力比べではなく、群れの中での立ち回りやメスへの気配りなど、複雑な条件が必要とされます。その中でジンがどのように活躍していくのか、担当者としては興味深いところです。
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〔多摩動物公園北園飼育展示係 佐藤澄音〕
(2018年07月06日)