飼育係に育てられたチンパンジーのジンが「養母」のサザエ(推定28歳)に受け入れられ、群れの個体との見合いが始まったことは以前お知らせしました(「ジン」の成長の
記事)。
最初に群れのリーダー的存在ケンタ(オス、30歳)と同居させ、ほかの個体を徐々に加えていき、無理をさせないように休みの日を入れ、そしてまた別のメンバーと格子越しの見合いをし、同居……という地道な方法を続けていきました。
みんなが仲良くしてくれるのか? 攻撃をされないか? ジンが部屋に戻ってくるまでは一時も目を離すことができず、われわれの心配は尽きませんでした。
何より緊張したのは、ほかの個体をサザエたちのいる放飼場に出すときです。扉を開け、同居させる瞬間は毎回手が震えました。貴重な記録となるため、常に観察記録のシート記入と、ビデオ録画を続けました。
こうして群れ入りを進め、徐々に同居時間を長くしていきました。日中の餌やりもジンを特別ひいきにすることはしませんでした。ほかの個体より優遇されていることをよく思わないチンパンジーもいるからです。
2010年6月に入ってからは休園日に表の放飼場で同居させ、6月30日にすべての個体との同居を果たしました。ジンはとうとう群れに入ったのです。
最近のジンは、なかまにも挨拶をするようになり、見よう見まねで覚えたのか、ほかの個体や飼育係に対してグルーミングをするようになりました。高い場所への昇り降りなども上達し、少しずつチンパンジーらしくなってきました。群れの子どもたちが次から次へとジンを遊びに誘ってきます。彼らはチンパンジーの生活を知るための、ジンの最高の先生だと思います。
ジンは群れの中で、毎日色々なことを学びながら成長しています。これもすべて養母になってくれたサザエとその娘のミルをはじめ、ジンを受け入れてくれたなかまたちのおかげです。
「チンパンジーがチンパンジーらしく生きていること」、この当たり前のことの大切さをこれほどまでに感じたことはありません。群れ入りしたジンとなかまのようすをぜひごらんください。
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ジンの誕生
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人工哺育のようす
写真:左よりミカン、サザエ、ジン
〔多摩動物公園北園飼育展示課 木岡真一〕
(2010年08月13日)