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アカガシラカラスバト保護個体の繁殖に向けて
 └─2018/04/20

 みなさんはアカガシラカラスバトという鳥を知っていますか。一見地味な姿の鳥ですが、小笠原諸島にのみ生息する希少なハトです。現在絶滅の危機に瀕しており、一時は約40~100羽にまで数が減りました。


アカガシラカラスバト成鳥

 アカガシラカラスバトを守るために、上野動物園では2001年3月に小笠原の父島で成鳥2羽(オスとメス)とひな1羽(オス)を捕獲して飼育を始め、繁殖にも成功しています。その後、多摩動物公園でも2007年から飼育を開始しました。

 先日、小笠原の父島から1羽のメスが多摩動物公園にやってきました。右足を骨折して保護された個体です。繁殖できる年齢ですが、ケガが治っても繁殖行動が見られませんでした。他のアカガシラカラスバトの鳴き声が聞こえるケージで雌雄をペアにしたり、雌雄それぞれ複数を一つのケージに同居させてペア形成を図ったりしてきましたが、臆病な性格もあってか、なかなか同居個体や環境になじめず、うまくいきませんでした。

 そこで、この個体としては初めての体験となる方法を試してみました。メスの性格を考慮した、メス優先の方法です。他の個体の姿や鳴き声がまったく聞こえない落ち着ける環境にメスを置き、そこにオスを1羽ずつ交替で入れ、メスに選ばせます。

孵化してまもないひな
12日齢のひな

 昨年(2017年)5月から始めたところ、3羽目のオスとのあいだで念願の有精卵を得ることができました。その後、メスによる抱卵も確認できましたが、残念ながらひなは育ちませんでした。その後、有精卵がなかなか採れませんでしたが、6か月経って5羽目のオスとの同居でやっと2つ目の有精卵が生まれました。しかし、親が途中で抱卵をやめてしまったため、孵卵器で孵化させ、現在人工育雛中です。

 保護個体が繁殖に参加することは、野生個体自身にとっても動物園にとっても大きな意味をもちます。なぜなら、飼育当初の個体数が少ない場合、繁殖を続けても遺伝的な多様性が小さく、近親交配の影響も心配されますが、この状態を改善するためには新しい血統を入れる必要があるからです。そのとき、野生に戻すことが難しい保護個体が重要な役割を担います。また、野生では生きていくことが難しい個体でも、飼育下では生きていくことができますし、繁殖の機会もあります。

 次なる目標は、このメス自身にひなを育ててもらうことです。ふたたび嬉しい報告ができるよう、今後も取り組んでいきます。

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〔多摩動物公園野生生物保全センター 阿尾佳美〕

(2018年04月20日)


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