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「海のゆりかご」の中の幼魚たち
 └─2019/02/22

 ゆりかごと言えば、赤ちゃんが安心して過ごせる、ゆらゆら揺れるカゴを想像する方も多いと思います。では、「海のゆりかご」と聞いて何を想像するでしょうか?

 今回は、前回の記事(特設水槽で静かに戦う“癒しの住人”たち)に引き続き、「東京の海」エリアの特設展会場で開催中の「海のゆりかご展」をご紹介します。


 「海のゆりかご展」ではサンゴ礁や海草藻場、そしてそこでくらす生き物を展示しています。サンゴ礁や海草藻場は幼魚たちにとって身を守ることができる「隠れ家」になるのです。また、この隠れ家には幼魚のえさになるような小さな生物たちもくらしているので、「えさ場」にもなります。さらに、敵に狙われにくい産卵場所としても使われます。この環境こそが、幼魚たちが安心してくらせる、まさに「海のゆりかご」としての役割を果たす場所なのです。

 現在水槽内では数種の幼魚を展示しています。淡い青色の体色がきれいなデバスズメダイの幼魚が危険を察知するといっせいにサンゴの隙間に隠れたり、紺地に白いうずまき模様の特徴的なタテジマキンチャクダイの幼魚が海草に付着した藻や小さな生物をついばんでいたり、「ゆりかご」の環境を活用した魚たちの行動が観察できます。

 幼魚たちの面白い行動がたくさん見られる水槽ですが、中でも私のおすすめは、まるで水中を漂う海草の切れ端のようなちょっと変わった魚です。ホシテンスというベラ科のなかまで、ひらひらと揺らめくように泳ぎ、海藻の切れ端などの浮遊物に擬態をしているともいわれています。危険を察知すると頭から砂の中に一瞬で潜ります。あまりにも隠れるのがうまく、水槽内で見つからないこともしばしばあり、いなくなってしまったのではと心配になることもあります。えさを入れるとどこからともなく姿を現し食べに来ますが、その姿を見て飼育係もほっと安心しています。


【動画】ベラ科の魚、ホシテンス。海藻の切れ端のような姿をしている

 ちなみにホシテンスは幼魚と成魚で見た目が大きく変わります。同じ水槽で飼育しているタテジマキンチャクダイやカンムリベラの幼魚も成魚とはまったくちがう姿です。そういった点にも注目しながら、「海のゆりかご」に住む生き物たちのくらしを覗いてみてください。

◎関連記事:
 「タテジマキンチャクダイの模様くらべ」(2014年4月25日)
 「同じ魚には見えない──カンムリベラの幼魚と成魚」(2018年11月23日)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 石神まゆか〕

(2019年02月22日)



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