葛西臨海水族園「東京の海」エリアの特設展会場で、昨年(2018年)11月1日から「海のゆりかご展」を開催しています。特設展の中央に設置された、サンゴ礁で守られた穏やかな浅瀬を再現した水槽は、イシサンゴ類を中心にソフトコーラルや海草がユラユラと揺れ、その葉や枝の間を小さい魚たちが泳ぎまわるというなんとも“癒し効果”抜群の水槽で、今までにない独特の存在感を放っています。
水槽横の丸窓からの風景
でも、この水槽の主要生物であるサンゴや海草たちは“癒し”のイメージとはちょっと違った生活を日々送っています。
穏やかにくらしているように見えるサンゴたちも、成長してお互いが接触するようになると、攻撃に特化した触手、「スイーパー触手」などの武器を使って攻撃をしかけたり、他のサンゴを覆うように成長して太陽の光を奪い、他の個体が優位になるのを阻止しようとします。水槽内ではサンゴどうしが接触しないように配置し、「サンゴのケンカ」が起きないよう気を配っています。まぁケンカするくらいドンドン成長してくれると、それはそれで飼育係としては嬉しいことなのですが。
ぶつからないように配置されたサンゴのなかま
水槽の半分は「海そう」のエリア。「海そう」は海藻と海草を一度に表す表記です。水流に揺られてユラユラ揺れるようすは見ているだけで気持ちいいのですが、こちらも毎日がせめぎ合いの日々なのです。
この水槽にはタカノハヅタ、クビレヅタという海藻とリュウキュウスガモという海草を植えてありますが、成長が速いタカノハヅタとクビレヅタは茎をドンドンと横に伸ばし、成長の遅いリュウキュウスガモの上を覆ってしまうのです。上を覆われた植物は光が不足し、弱っていきます。この戦略は、陸上の植物なら竹や芝とそっくりです。3種がバランスよく成長できるよう、毎日観察しながら必要に応じて海そうのトリミング(刈り込み)をおこなっています。
トリミング前とトリミング後
特設展オープンからやっと3か月。サンゴも海そうも少しずつ成長し始めた「海のゆりかご展」特設水槽。これからも日々の観察をしっかりとおこないながらトラブルの芽を事前に取り除き、みなさんに楽しんでもらえる水槽を目指します。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 増渕和彦〕
(2019年02月08日)