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女王亡き後の群れのゆくえ
 └─多摩 2021/06/10
 2021年5月下旬、現在展示している群れのハキリアリの女王が死亡しました。昆虫園におけるハキリアリの飼育は20年近く続いていますが、過去飼育していた群れの女王はおおむね5年以内で死亡しています。この群れは2014年に来園したので(お知らせ)、女王は少なくとも6年半以上は生きたことになります。昆虫園としてはもっとも長く生きた女王(※末尾「関連記事」参照)ですが、まだ群れに勢いがあり女王も若かったころを知るものとしては、やはり死亡してしまうのはさびしいものです。


死亡した女王
死後もしばらくは働きアリが世話を継続します

 女王がいなくなり、群れもいっしょに消滅してしまったのかというとまったくそんなことはなく、多数の働きアリたちが、現在も展示ケースの中で菌園とともに生き続けています。新たな若い群れもバックヤードで待機していますが、もうしばらくはこの群れの展示を継続していく予定です。

 さて、なぜ群れがまだ続いているのかと疑問に感じる方もいるかもしれませんが、これは今までと同じ生活を維持するために、働きアリがそれぞれの作業をこなし続けているからです。人間から便宜上「女王アリ」とは呼ばれているものの、女王は全体に指示を出しているわけではありません。女王はあくまで働きアリを産む担当で、働きアリも自発的に行動しているため、女王がいなくても短期間群れを存続していくこと自体はできるのです。


女王のいない巣でも続く日々のくらし

 このまま働きアリだけでくらしを継続していければよいのですが、女王の子供である働きアリは半年から一年程度の寿命のため、今後徐々に寿命を迎えた働きアリたちが脱落し始めます。ハキリアリの場合、身近に見られるアリのように、減ってしまった働きアリの仕事を他の個体が協力して肩代わり、ということがスムーズにいきません。ハキリアリはキノコを栽培するという難度の高い生活をしていくために、働きアリの大きさを細かく変え、大きさに応じた分業をするという進化をしてきました。流れ作業のような連携で生活が成り立っているため、どこかの担当が欠け始めると総崩れにつながってしまいます。過去の記事でも働きアリはまだ数多くいるのに、「葉を切らなくなった」などの記述が出現するのはそのためです。

 また、この群れはキノコの出現が女王死亡時に確認されています。私自身も書く際にやや混乱しますが、ハキリアリの菌園はキノコ(子実体)が生えないようにアリ側がコントロールしているため、ふだん生えてくるのはキノコではなく、菌糸体という大きさも形もまったく別の物です。おそらく今後コントロールがうまくいかなくなるにつれ、再度出現する可能性があります。キノコが発生すると栄養が取られてしまうのか、菌園の崩壊が早まるため注意が必要です。


菌園から生えてきたキノコ(子実体)

 この群れの展示を継続することで、なぜ女王は重要な存在なのか、女王がいなくなることが群れにどんな影響を与えるかを、来園者のみなさまに観察し、考え、理解していただくよい機会であると考えています。数年に一度しかない、群れの終焉。ぜひ、終わりまでの日々の変化を見届けに来てください。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺〕

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(2021年06月10日)



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