◎捕獲せよ!シリーズ第6弾
最初は2頭だった多摩動物公園のヨーロッパオオカミ。4年続けて繁殖に成功し、今では13頭の立派な群れになりました。繁殖が順調なのは喜ばしいのですが、巣穴を作って出産するので、出産シーズンが近づくたびに地面が掘り返され、緑豊かだった放飼場は荒れ果ててしまいました。
自然な子育てが観察できるので人気があるものの、放飼場の「崩壊」が進むとオオカミたちに危険がおよぶため、補修工事をおこなうことにしました。
工事のあいだ、オオカミたちは隣のオランウータン舎に移すことになりました。しかし、警戒心が強いだけに引越しも一苦労です。夜間は室内外を自由に行き来して生活していたオオカミたちを、部屋に収容するまで2週間もかかりりました。
なにしろ、鋭い牙をもつオオカミが相手なので、こちらが部屋に入って直接網で捕獲するわけにはいきません。動物舎には動物を搬出入するための出入口があるので、そこに収容箱を固定し、そこに追い込んで1頭ずつ運びます。しかし、部屋の隅で動かなくなってしまう個体、怒って木材を噛み砕き始める個体、警戒して引き返してしまう個体など、反応はさまざまです。
無事箱に入ったら、トラックで運び、おろした箱から直接放飼場に放します。2日に分けて引越しをしましたが、人に慣れている個体は近づいてきて作業をじゃまする可能性があるので、後回しにしました。そうなると、最初に運ばれるのは臆病な子どもたちばかり。慣れない場所に入れられてパニック状態におちいり、ガラスに飛びついたり、フェンスに飛びついたりして、きれいだったガラス面があっというまに汚れてしまいました。
子どもたちだけでは落ち着かないので、初日の最後に、母親のモロを運びました。モロはさすがに度胸もすわっていて、箱入れもまったくスムーズ。ムダな抵抗をしてもしかたがないことを理解しています。おびえて走り回っていた子どもたちも、モロが展示場に入ったとたん、落ち着きを取り戻し、モロにすり寄っていきました。しかし、群れを分断してしまったわけですから、オオカミたちは落ち着かず、夕方になると遠吠えで呼び合っていました。
作業は2日がかりでしたが、最後に父親のロボが群れに合流したときの子どもたちの熱烈な歓迎ぶりは感動的でした。家族のきずなが本当に強い動物だということを実感しました。
全頭が合流してから2~3日もたつと、引越しのバタバタがうそのようにおさまり、落ち着いて生活するようになりました。
意外だったのは、オープンなモート式(堀で隔てられた展示方式)よりも、フェンスで隔てられた展示場の方が、オオカミたちが安心することです。しっかりしたフェンスに囲われていた方が守られているように感じるらしく、もとの展示場にいるときよりも警戒せずに近付いてきます。距離が近いのでオオカミの大きさが実感できますし、平地が多いので走り回るすがたも見られます。
今年も複数回の交尾が確認されており、出産が期待されるのですが、動物の状況と工事の状況によって、どちら放飼場で産むかが決まってきます。オランウータン舎での展示は期間限定ですので、興味のある方はお早めにおこしください。そしてぜひ、真っ黒な毛をした子どもたちと、子育てのようすを見に来てください。
写真上:オオカミを箱に入れる作業
写真中:新しい展示場にオオカミたちを放す
写真下:恐がって逃げまどう子どもたち
〔多摩動物公園南園飼育展示係・熊谷岳〕
・捕獲せよ!シリーズ
第1弾:
ヒマラヤタール
第2弾:
ニホンコウノトリ
第3弾:
タヌキ
第4弾:
ツル類
第5弾:
フライングケージの猛禽類
第6弾:ヨーロッパオオカミ(本記事)
・東京ズーネットBBの動画「
ヨーロッパオオカミ誕生」(2007年6月)
(2009年03月06日)