多摩動物公園には、現在4頭のチンパンジーの子どもがいます。6歳のイブキ(オス)、5歳のプラム(メス)、3歳のディル(オス)、そして今月1歳になるシジミ(メス)です。
チンパンジーの子どもにとって、遊びは「学びの場」です。子ども同士でよく遊び、母親は少し離れたところから見守ります。小さなケンカが起こり、わが子が泣くと、母親はすぐに駆けつけて味方をしたり、背中に乗せてその場から離れたりします。楽しく遊び続けるためには、相手を泣かせない力加減が重要です。遊びを通して、チンパンジー同士の関係性を学んでいるのでしょう。
チンパンジーのオスと子ども「デッキーとディル(当時1歳)」の遊び(2023年6月16日撮影)
現在はプラムとディルがよく遊んでいます。以前はイブキも参加していましたが、最近はあまり一緒に遊ぶ姿が見られません。成長に伴い、オスとして認められ始めたのかもしれません。また、プラムにはえさをねだられると渡してしまうおとなが多いのに対し、なぜかイブキにえさを渡すチンパンジーは少ないのです。
しかし、えさをもらえないからといって諦めるイブキではありません。欲しいえさがあるときには、わざとおとなを怒らせているように見えます。怒ったおとなが、ついえさを地面に置くと、その餌を持って素早く走り去ります。
ずる賢い一面がある一方で、チンパンジーの子どもたちは共感力の塊でもあります。大人がケンカに負けて泣いているときや、挨拶をしたのに相手に応えてもらえなかったときには、そっと駆け寄り、大人を抱きしめて落ち着かせます。
1歳のシジミは子ども同士で遊ぶにはまだ小さすぎます。母親のミルのおなかにくっついているか、一生懸命つかまり立ちをしながら周囲を観察しています。シジミはみんなのアイドル的な存在で、ミルとシジミを中心におとなたちが輪になっていることもあります。みなシジミをかまいたいようで、おばあちゃんチンパンジーのペコ(メス・推定64歳)も、シジミのおなかにそっと口づけをしていました。

子育て経験の少ないナナ(メス)がシジミの世話をしているところ
群れの中に子どもがいるとき、おとなたちは生き生きとして見えます。チンパンジーの社会は特定のパートナーを持たないので、オスたちは父親の自覚がなく、相手が自分の子かどうかは気にしません。遊びたいときにはわざと手や足を動かして子どもの興味を引き、追いかけっこをしたりします。
また、かつて育児放棄をしたピーチの変化には驚かされます。子のプラムを遠くから常に見守り、何かあれば駆けつけ、えさをねだられたら渡してしまいます。朝、ピーチたちの部屋からは親子でくすぐりあって笑う声が聞こえます。

ピーチとプラム親子
成長とともに、さまざまな表情を見せる子どもたち。その姿を通して、おとなたちもまた育てられているようです。
〔多摩動物公園 北園飼育展示係 野田〕
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