ニュース
チンパンジー「ミル」の子育て
 └─ 2024/12/06
 今から約半年前、2024年5月26日に人工授精によってチンパンジーの「ミル」(メス、21歳)がメスの子ども「シジミ」を出産しました。ミルの名前は「ミル貝」が由来のため、その子にも「貝」にちなんだ名前をつけました。


シジミは多摩で人工授精によって誕生した2頭目の子どもです(1頭目はミカンが生んだディルです)

 ミルは2013年に初めて出産した際、生後約35時間で子を亡くしています。あきらめきれずに、死んだ子の世話をしばらく続けた姿や、ほかの子に興味をもつ姿から、「きっとミルは子ども好き」と思っていた私たちにとって、シジミの誕生はとてもうれしい出来事でした。

 出産した子どもをミルは私たちの想像どおり、しっかりと抱いて世話をしていました。子を育てたことがないチンパンジーは育児放棄をする確率が高いといわれています。群れの中でほかの親の育児に協力していた経験もあってか、ミルの子育てはとても上手に見えました。


出産時の映像

 ところが、生まれて3週間ほどたったころ、ミルの手首にできものができていることに気づきました。子や自分を過剰になめてしまっているようでした。出産後のメスは神経質になることがあるので、ミルも育児ノイローゼになっているのではないかと心配になりました。

 親子だけですごす毎日がミルに負担を与えているのではないかと考え、他個体とのお見合いや同居を積極的に進めていくことにしました。群れのメンバーと再会し、すぐに打ち解けたミルではありましたが、ほかのチンパンジーたちはシジミに興味深々で、ミルの近くにいることが多く、ときどきさわろうとします。そうするとミルは怒って、その個体を避けるような動作をしていました。

 しかし、「ミカン」(メス、18歳)とその子ども「ディル」(オス、2歳)に対するミルのようすは違いました。ミカンに何度も挨拶をし、自らミカン親子の近くに寄っていき、ディルを遊びに誘います。ディルはミルに抱き寄せられ、そっとシジミにさわります。近い年齢の子どもどうし、ミルはなかよくしてほしかったのかもしれません。こうした同居に取り組んでいくうちに、ミルの手首のできものはなくなり、ほっとしました。


ミルと遊び、笑っているディル(右上)。ミルのおなかにしがみついているのがシジミ(左)

 シジミは10月にはミルが食べているものを口に入れるようになり、「オッ」と声を出したり、格子をつかんで立ち上がったりするようになりました。今は何でも口に入れたいようすです。ミルが危ないと判断するとすぐに抱き寄せられてしまうので、ミルに許される範囲で、できる限りの冒険をしようとしています。

 朝、私が「今日も赤ちゃんかわいいね!」と話しかけると、挨拶をしてくれるミル。ふらふらとつかまり立ちをしながら、私を興味深げにみつめるシジミに、そっと手を添えるミルの顔はなんだか誇らしげにも見えます。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 野田〕

◎関連記事
チンパンジーの人工授精 ふたたび成功!(2023年12月15日)

(2024年12月06日)


ページトップへ