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グレビーシマウマ 国内最高齢28歳「ナギ」の飼育
 └─ 2025/01/24
 多摩動物公園で飼育されている唯一のシマウマ、「ナギ」(メス)は2025年1月末現在28歳5か月で、国内のグレビーシマウマの中で最高齢になりました。当園におけるシマウマの最高齢記録を更新し続けています(ナギ以前の記録は24歳8か月の「ハルコ」1977.12~2002.9)。

 動物園では安定的な栄養供給と安全が保障されているので、野生での寿命よりも長く生きる動物も多いのですが、野生動物の場合、家畜やペットなど人間と関わりの深い動物に比べて研究成果やデータが少なく、われわれ飼育係が手探りで動物の状態を見極めながら改良を重ねている部分が多くあります。

 人間の場合もそうですが、シマウマも高齢になると体のいたるところに不具合が出てきます。高齢のために運動量が減ると、蹄が十分に削れずに伸びすぎてしまうため、半年に一回ほどの間隔で競争馬の装蹄師さんに来ていただいて「削蹄」(さくてい)を実施しています。

 削蹄をしてもらうと見た目にもきれいになり歩きやすくなるのですが、削ることで露出した傷んだ部分から痛みが出ます。それが悪化すると鎮痛剤の投薬が必要になります。鎮痛剤は効果的な薬ではありますが、強い作用があるので、常用することは体によいものではありません。

 ナギを観察していると、硬いコンクリートを歩くときにとくに痛んでいるように見えました。そこで、ナギが歩く通路やよく滞在しているコンクリート部分にゴムマットを敷いてみたところ、歩様が少し改善しました。効果が見られたため、さらに長く滞在する寝室内には厚めのゴムマットを全面に敷きました。


ゴムマットが敷かれた寝室ですごすナギ

 運動場へ出る際に、覇気がない日が多いのも気になりました。運動場では室内でも与えている乾草と青草だけを与えていましたが、外へ出る楽しみが少ないのではと考え、ビートパルプ(てんさいの搾りかすを乾燥させて作った飼料)と草の成分が多くてカラスが好まないペレットもいっしょに運動場で与えるようにしました。運動場でえさを与える際には地面に直接置いていましたが、食べる際に前傾になるために痛めた前肢に負重がかかり、辛い体勢になります。そこで、X形に開くスタンドにプラスチックの網を張って「草かけ」(青草などを入れる給餌台)を作り、そこにえさを置くことにしました。

 痛みが少ないようなので2024年5月から鎮痛剤の投薬を中止していますが、厳寒期の現在までに投薬が必要なほどの症状は出ておらず、朝も早く出たくて大きな鳴き声を上げてアピールすることが増えました。以前よりもあきらかに覇気があるようなので、四肢の痛みを考慮して寝小屋から近い場所に置いていた草かけもお客さんに近い柵の前に移動しました。今では毎朝運動場に出ると、しばらくのあいだ草かけからえさを食べているので、開園直後は間近で見られるチャンスです。


草かけからえさを食べるナギ

 生きものが相手なので、常に最良の完璧な答えというものはなく、その個体の状態をたえず見極めながら最善を尽くしていくのが飼育係の仕事です。来年度、最高齢のナギが新しいシマウマ舎へ戻れるように今後も陰ながら支えていきます。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 熊谷〕

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