タイリクオオカミ「カヨラン」が父親になるまで

2026年9月18日

多摩動物公園では、2026年4月26日にタイリクオオカミが生まれました。「スイ」(メス)はすぐに子どもの面倒を見始め、母親としての姿が見られましたが、「カヨラン」(オス)が父親となるには少し時間がかかりました。今回は、現在の仲むつまじい家族の姿に至るまでの、父親カヨランの軌跡をご紹介します。

カヨランと子ども
カヨランと子ども

産前のスイとカヨランは仲がよく、じゃれ合う姿もよく見られました。ところが、胎動を確認できるようになったある日、スイはカヨランと距離をとるようになりました。カヨランを威嚇し、同じ部屋に入ることさえ許しません。出産が近いかもしれないと思っていたところ、翌朝、放飼場にある人工の巣穴で出産しました。

出産当日、巣穴を覗こうとしたカヨランは、スイの逆鱗に触れ、放飼場の隅まで追いやられていました。その後もカヨランが巣穴の近くを通るだけで、スイは巣穴から飛び出し、猛追します。ときには獣舎の中まで追いかけ、毛が飛び散るほどでした。このまま同じ放飼場ですごせるのか、また、採食や飲水が見られないスイの体調も心配されました。

産後2日経っても、監視カメラには巣穴上部にある岩場へ移動するカヨランを追いかけるスイの姿が映っていました。最初は、カヨランが巣穴の近くを通るため、それに対して威嚇をしているのかと思っていましたが、ようすが少し違います。どうやら、巣穴から離れた場所でカヨランからえさをもらっているようでした。

しだいに、スイの警戒心が和らぎ、自分でえさを取りに行けるようになると、カヨランによる給餌行動は減り、以前のように寄り添ったり、じゃれ合う姿も見られるようになりました。スイがカヨランに甘え、えさを催促し、吐き出させたものの、スイは食べずに立ち去ることも……以前見られた、スイに翻弄されるカヨランの姿も戻り、トゲトゲとした関係は消えていきました。

それでも、カヨランが巣穴に近づくことだけは許されません。巣穴を気にするカヨランのあいだに入り、追い払います。そんな日々が続いたある日、ついにカヨランが子どもたちと対面するときがきました。スイが巣穴の外で休んでいる隙に、カヨランがそっと巣穴に入っていきます。そして、子の前で小さくなり、ゆっくり座ろうとした瞬間……異変に気づいたスイが猛烈な勢いで戻ってきて、巣内は大惨事に(詳しくは動画をご確認ください)。

子はまだ巣穴から遠くまで離れたことはないのに、放飼場の中央まで出て行ってしまいます。スイはカヨランに威嚇しながら子を探し続けます。未熟な子どもの脱出も侵入者から逃れるための本能的な行動なのかもしれません。まだカヨランが父親として認められていないのか、と思わせるできごとでした。

子が成長し巣穴から頻繁に出るようになっても、カヨランの気配を感じるとスイは子を巣穴に帰らせる状態が続きました。

しかし5月21日、スイと子どもたちが遊んでいるところに、カヨランが近づいてきました。カヨランは一定の距離からは近寄らず、子どもたちが来るのを待ちます。スイもようすを見ながら、近づきすぎると引き戻したり、あいだに入ったりしていました。この日を境に、子どもたちとカヨランの距離は縮まっていきました。

6月上旬ごろからは、スイはカヨランに子守りを任せ、採食や巡回、休息など、ひとり時間を満喫するようになりました。現在カヨランは子にグルーミングをしたり、えさを与えたり、寄りそう姿が多く見られ、子どもに教育する姿も見られます。とはいうものの、初めて子に歯をむき出したときは、すぐさまグルーミングしてごまかすような姿も見られました。

群れを率いる威厳はまだ足りないようにも感じますが、これからも父親としてのカヨランの成長を見守っていただければと思います。

〔多摩動物公園南園飼育展示第一係 友岡〕

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