傷病保護されたアカガシラカラスバトの繁殖

2026年5月8日

これまで多摩動物公園ではアカガシラカラスバトの保護増殖事業に協力し、2015年から傷病個体の受け入れ、治療と回復した個体を活用した繁殖などに取り組んできました。今回、2023年に受け入れた個体が繁殖したので、その経過をお知らせします。

来園~懸命な治療 

2023年1月、小笠原諸島に生息する絶滅危惧種アカガシラカラスバトのメス「#209」が、父島で飛翔不能な状態で保護され、多摩動物公園内の動物病院に来園しました。野生由来の個体は飼育下の個体群にはない遺伝子をもっているため、この個体の繁殖は種の保存において重要な意味をもちます。

しかし、来園直後に原因不明の食欲不振に陥り、自力での採食が困難となりました。保護されたときに400gあった体重は270gまで激減し、羽の状態も著しく悪化していました。

獣医師による約2か月の懸命な治療と、インコのひな用の飼料などをカテーテル(医療用のチューブ)で胃内に強制給餌することにより回復し、2023年4月には園内の「育雛舎」で飼育できるようになりました。

個体の性質を考慮したペアリングと失敗

当園ではこれまでに9羽の傷病保護個体を受け入れてきましたが、この個体はほかの保護個体に比べても非常に警戒心が強く、環境順応には長い時間を要しました。まずは単独飼育として隣接ケージに同種がいる環境に慣らしましたが、1年以上経過しても他個体への関心を示すことはありませんでした。

そこで試しに2025年5月にオスとの同居を試みました。相手には、闘争時の安全を考慮し、同じく保護個体で、翼の一部を骨折により欠き飛翔できない、かつ穏やかな性格のオスを選定しました。約4か月間の同居をおこないましたが、残念ながら繁殖行動への進展は見られませんでした。

作戦変更 積極的なオスを選ぶ

そこで飼育チームでペア相手と環境を変更する計画を立てました。新たな相手には、繁殖経験が豊富で積極的なオス「#218」を選定。さらに、オスが主導して営巣をおこなえるよう、このオスが過去に繁殖に成功した部屋へ、まずはメスの#209を先に移動させて環境に慣らしました。

お見合い中の#209♀(左上)と#218♂(右下)
お見合い中の#209♀(左上)と#218♂(右下)

この方法は#209にはあっていたようで、隣室に#218を移動して、金網越しにお見合いを開始した数日後には、互いに首を振るなどの繁殖行動の前兆を確認しました。

さらに同居前にもかかわらず、#209が産卵しました。卵は割れてしまいましたが、2羽の相性もよさそうでしたので、その翌日の2025年12月1日に2羽の同居を開始しました。

同居から3週間後の#209♀(右)と#218♂(左)
同居から3週間後の#209♀(右)と#218♂(左)

同居開始からわずか2時間後には交尾と営巣が確認されました。1、2回目の産卵は巣作りがうまくいかず孵化にいたりませんでしたので、3回目は「人工孵化」の技術を併用しました。これは産卵数日後の卵を回収して孵卵器で温め、孵化直前に親の巣へ戻す方法です。

2026年2月24日に孵化直前の卵を親に戻した結果、翌日には孵化の目印である「孵化したひなが出たあとの卵の殻」をケージ内で確認しました。孵化当初は警戒心の強い#209が育雛を放棄しないよう、巣の中を確認しませんでしたが、22日目にひなの生存を、37日目には無事に巣立ちを確認しました。

孵化から22日目のひな
孵化から22日目のひな

保護されてから繁殖が成功するまでに3年かかりましたが、ケガをして野生で保護されるなど過酷な状況を経験した個体が動物園で次世代を残せたことは、希少種の保全における大きな成果となりました。

巣立ったひな(孵化49日目後)と母親#209♀
巣立ったひな(孵化49日目後)と母親#209♀

〔野生生物保全センター保全係 石井〕

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